〈男子重量挙げ〉56㎏級、オム・ユンチョル選手が金

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朝鮮選手で今大会初、ジャーク170㎏の世界新

重量挙げ男子56kg級で優勝したオム・ユンチョル選手(中央、写真:盧琴順)
重量挙げ男子56kg級で優勝したオム・ユンチョル選手(中央、写真:盧琴順)

【仁川発=李永徳】誰もが固唾を呑んで見守っていた。20日、ウエイトリフティング(重量挙げ)男子56キロ級の会場は静寂に包まれていた。朝鮮のオム・ユンチョル選手(22)はバーベルに手を添え、全神経を集中させる。そして気迫のこもったかけ声とともに166㎏の重みを肩の高さまで持ち上げ、そのまま力の限り天井に向けて突き上げた。

会場には嵐のような大歓声が巻き起こった。仁川アジア大会(9月19日~10月4日)で朝鮮選手団にとって初となる金メダリストが誕生した瞬間だった。スナッチ128㎏、ジャークで170㎏をあげ総合298㎏。総合ではアジア大会新記録を樹立、ジャークでは自身が持つ世界記録を更新し、金メダルの快挙に彩りを添えた。

重量挙げ男子56kg級で優勝したオム・ユンチョル選手。ジャークで自身の持つ世界記録を更新した試技(写真:盧琴順)
重量挙げ男子56kg級で優勝したオム・ユンチョル選手。ジャークで自身の持つ世界記録を更新した試技(写真:盧琴順)

南の同胞たちの応援に感謝

オム選手は2012年のロンドン五輪でジャーク168㎏のオリンピック記録を打ちたて金メダルを獲得した。2013年のアジアカップおよびクラブ対抗ジュニア・シニア重量挙げ選手権(平壌)ではスナッチで120㎏、ジャークで169㎏を上げ総合289㎏で3つの金メダルを獲得し、ジャークでは世界記録を更新するなど、朝鮮のウエイトリフティング界が誇る世界屈指の若手選手だ。

今回の試合のスナッチでは1回目で123㎏、2回目で128㎏を上げたが、3回目の131㎏は失敗。一方で中国の選手がアジア記録に並ぶ133㎏を成功させると、ベトナムの選手が134㎏を上げアジア新記録を叩き出すなど、手に汗握るハイレベルな展開が繰り広げられた。

ジャークでは一回目で160㎏を成功させ総合288㎏とするが、負けじとベトナムの選手が3回目で160㎏を上げ総合294㎏に。だがジャークを得意とするオム選手に「不安はなかった」

金メダルを狙うオム選手は勝負に出た。申告した重さは166㎏。これをあげればベトナムの選手と総合で並ぶが、ルール上、体重の軽いオム選手の優勝が決まる。

オム・ユンチョル選手に声援を送る朝鮮選手団と南の市民たち(写真:盧琴順)
オム・ユンチョル選手に声援を送る朝鮮選手団と南の市民たち(写真:盧琴順)

この日会場には朝鮮の金メダリストの誕生を見届けようと、朝鮮選手団の役員や赤いTシャツに身を包んだ「南北共同応援団」、南の市民らが駆けつけ、心をひとつにしながら熱狂的な声援を送っていた。観客席には白地に水色の朝鮮半島が描かれた大小の「統一旗」がなびき、「ウリヌン、ハナダ(我らはひとつだ)」という文字が刻まれた横断幕が掲げられていた。そして何度も繰り返される「オム・ユンチョル」コールが圧倒的なホームの雰囲気をつくりだしていた。

そんな応援に背中を押されるようにオム選手は、プレッシャーのかかる試技を一発で成功させ優勝を決めてみせた。雄叫びをあげながらジャンプし、ガッツポーズをあげる金メダリストに観客たちは総立ちで割れんばかりの声援と拍手を送った。

そして熱が冷めやらないままに、オム選手は自分との戦いに気持ちを切り替えた。挑戦したのは自身の世界記録を1㎏上回る170㎏。「機会が来たら上げれると思っていた」(オム選手)と勢いそのままに全力を振り絞ってバーベルを持ち上げ、世界新記録を樹立してみせた。

朝鮮民族が生んだ「小さな巨人」の偉業を目の当たりにした朝鮮選手団と南の市民たちは、ともに「ウリヌン、ハナダ(我らはひとつだ)」と叫び、歌「ウリヌン・ハナ(我らはひとつ)」「パンガプスンミダ(お会いできて嬉しいです)」を大合唱した。そして朝鮮国旗を身に纏ったオム選手も満面の笑みを浮かべながら、自身に力を与えてくれた観客たちに向かって何度も手を振っていた。

表彰式で「愛国歌」の旋律が会場に鳴り響くなかで、一番高く上がった朝鮮国旗を感慨深げに眺めていたオム選手は試合後、人なつっこい笑顔を振りまきながら「優勝できて本当に嬉しい」と感想を述べ、「南の市民たちの声援が大きかった。本当にありがたい。応援に感謝したい」と何度も感謝の意を口にしていた。

優勝を決めた瞬間。雄叫びをあげながらジャンプし、ガッツポーズするオム・ユンチョル選手(写真:盧琴順)
優勝を決めた瞬間。雄叫びをあげながらジャンプし、ガッツポーズするオム・ユンチョル選手(写真:盧琴順)

「私たちはひとつの民族」

仁川の地で誕生した朝鮮金メダリストの勇姿に、多くの南の市民たちが心を揺さぶられていた。

朝鮮の選手団を応援しようと遠く離れた蔚山から駆けつけたチェ・ムヨンさん(35)とカン・ソンヘンさん(34)は、オム選手の快挙を目の当たりにしてこみ上げてくる感情を抑えきれない様子で語った。

チェさんは「本当に感動的だった。同じ朝鮮民族の活躍に胸が熱くなった」と目に涙を浮かべて言葉を詰まらせていた一方、カンさんは「言葉にできない嬉しさと感動が入り混じっている。北の応援団が仁川に来れなかったのは惜しいが、北の選手たちが今後の競技でもいい結果を残せるように、自分たちが全力で声援を送りたい」と興奮気味に語った。

朝鮮女子サッカーの応援にも足を運んだというカン・スジョンさん(30)は「北の選手たちが南の地で開催されるアジア大会に出場すると聞いて、ぜひ応援しに来たかった。サッカーの会場でも強く心を打たれたし、今回の重量挙げではオム選手の優勝と世界新記録という場面に出遭えて感激のあまり胸がいっぱいになった。北の選手団の方々と一緒に応援しながら、私たちは間違いなくひとつの民族なんだということを深く実感した」と感慨に浸っていた。

(朝鮮新報)