TODAY 2026年 09月 08日

「進むも地獄、引くも地獄 」ーアメリカ中東戦略の行き詰まり/エィミ・ツジモト(国際ジャーナリスト)

2026年08月05日 13:00 主要ニュース

イランの核施設攻撃(Operation Midnight Hammer)に投入された米空軍のB-2ステルス爆撃機。(写真=U.S. Air Force)

第二次大戦後、アメリカは長らく世界一の軍事大国であった。ところが今回のイランとの戦いは、戦後一貫して続けてきたアメリカの「覇権主義」が、いま大きな転換点を迎えつつあることを示している。

冷戦時代のさなか、旧ソ連は原爆の保有によって軍事上の対抗相手となっていた。しかし、核保有国の米ソ両国が直接地上戦を交えることはなかった。1950年に勃発した朝鮮戦争がその一例だ。

朝鮮戦争では、同盟国――属国となった韓国はアメリカの介入によって生き残ることができた。一方、共和国は著しい犠牲を払いながらも自主権を守り、西洋列強をはじめアメリカの「脅し」に怯むことなく今日に至っている。さらに言えば、「核保有国」となり、アメリカに対抗し続けている。ここに、「核」武装を否定し続けたイランとの大きな違いがある。

韓国を属国と称すれば抵抗意見があるだろう。しかし、ここに一つの事実がある。

今なお停戦中の朝鮮半島において、万が一にも戦闘が再開された際、韓国軍はアメリカ軍の指揮下で戦闘を行うことになる。2026年現在においても、アメリカ軍大将が司令官を務める韓米連合軍司令部が韓国軍を含む連合作戦を指揮する体制は維持されている。自国の軍隊が外国軍の指揮下にあるという現実を、どのように考えればいいのだろうか。

あるいは、米韓両軍は同じ目的――すなわち共和国の崩壊――ゆえに、主導権がどちらにあるかなど問題ではないという意見の人もいるだろう。しかし、朝鮮戦争初期には老斤里などにおいて、米軍が「共和国軍兵士や共産主義者が難民の中に潜入している」との疑いを抱き、朝鮮人難民に発砲し、死傷させた事件がいくつも存在している。これは、外国軍ゆえに他国の民間人を平然と殺害した事例である。

だが、このような事件は朝鮮戦争に限ったことではない。ベトナム戦争をはじめ、イラク戦争、アフガニスタン紛争においても同様であり、明らかに国際法を無視した行為であった。いうまでもなく、イランとの戦い初日には、イラン政府首脳部までも殺害している。アメリカ当局としては恣意的にやったとは言わないものの、戦後の「覇権主義」を今なお固執してきている証左である。

しかしその間、アメリカの力を前に反対勢力が拡大してきたことも事実である。その一つが、先に述べた共和国の「核」保有である。それによって自国の防衛を勝ち取っていることは世界が知るところである。

これまでのアメリカは敗北が続き、あげく撤退し大打撃を受けたにもかかわらず、「覇権主義」を終わらせようともしていない。

ところが今回、イランとの戦いによって初めてアメリカは自国軍の限界に直面している。のみならず、「覇権主義」そのものが脅かされるようになってきたのである。もはや、進もうが退こうがアメリカにとっては「敗北」なのである。以下、その理由を述べていく。

まず、戦いを続けてもアメリカが勝てない構造にある。その理由として、イラン側は国家の存亡を懸けて戦っているだけでなく、ホルムズ海峡という地理的条件においても優位に立っている。かつての戦争のように、空爆を繰り返すだけで相手国を降伏させることは、もはや共和国をはじめ「敵国」とみなす国々に対しては不可能となっている。

では、地上戦になればどうか。可能性が全くないとは言わない。しかし、大規模な地上戦を展開するには兵力が明らかに不足している。たとえ湾岸地域の基地などから上陸を試みたとしても、イランのミサイルやドローンによって多数の死傷者が出ることは避けられないだろう。そうなれば、アメリカ国民がそれを許すとは考えにくい。しかも、中間選挙を控えた時期でもある。

簡単に言えば、アメリカが空爆を続けても勝利する見込みは極めて乏しいのである。

では、戦いを続けなかったらどうなのか。

いうまでもなく、それもまたアメリカの敗北となる。

なぜなら、戦争が始まる前までホルムズ海峡は自由に航行することができた。しかし現在は、海峡の管理や航行のあり方をめぐる新たな動きが生じており、アメリカはその主導権を握れていない。イラン側十二・五マイル、オマーン側十二・五マイルという両国の領海によって海峡は構成されており、これまで各国の船舶が自由に通航できたのは、両国がそれを認めてきたからでもある。現在、通航や管理をめぐる協議も続いている。この一点を見ても、アメリカは主導権を失いつつあるのである。

アメリカはイランに対し、ウラン濃縮禁止を叫んでいる。しかし、この段階で手を引いたとしても、イランがそれに応じるとは考えにくい。イランはイスラエルに対抗する勢力として、レバノンのヒズボラやイエメンのフーシ派、さらにはガザのハマスを支援してきた経緯があり、その姿勢が今後も続くことは容易に想像できる。この点から見ても、アメリカが手を引けば、それもまた敗北を意味することになる。

フーシ派はすでに紅海の出口付近で船舶への攻撃を繰り返し、中東情勢は世界の物流やエネルギー供給にも大きな影響を及ぼしている。さらに、湾岸諸国にあるアメリカ軍基地もイランのミサイルやドローンの脅威にさらされている。仮にアメリカが中東から撤退することになれば、地域における軍事的影響力の低下は避けられないであろう。

ネタニヤフは、イラン国内の反対勢力が立ち上がれば現政権は倒れると主張し、政権交代を促した。またトランプは、米軍の空爆と経済制裁によってイランは2,3日で屈服すると楽観論を振りまいた。

しかし、どの国でもそうであるように、外部から攻撃を受ければ国民は団結する。ここにアメリカとイスラエルの大きな誤算があった。同時に、ネタニヤフ政権やモサドの影響力の低下も浮き彫りになった。

アメリカは今日にいたるまで、第二次大戦で築いた戦略を堅持し続けてきた。だが今や、ミサイルやドローンの開発によって「殺戮」の仕組みは大きく変化した。もはや航空母艦でさえ、相手国のミサイル一発で沈没しかねない時代となった。

いみじくも小泉防衛大臣は、イラン情勢を前に、日本も新たな戦術――ドローンの開発やミサイルの導入・開発――を取り入れなければならないと強弁する。これこそ、戦後生まれの国会議員たちの「無知」が露呈した日本の現実である。

ここで言えるのは、アメリカに残された道は、空爆の再開、経済制裁の継続、あるいは敗北を覚悟して中東から軍隊を撤退させること、この三つしかないということである。だが、いずれの選択肢をとろうとも、問題解決への道はなお遠い。

今回のイラン情勢は、中東だけの問題ではない。アメリカの覇権や国際秩序そのものが大きな転換点を迎えつつあることを示している。その意味で、朝鮮半島情勢とも決して無関係ではなく、今後の動向を注視していく必要がある。

(朝鮮新報)

プロフィール

アメリカ・ワシントン州出身(日系4世)の国際フリーランスジャーナリスト。被爆2世。ヨーロッパ・オセアニア・日本に在住し、日系移民の歴史や捕虜問題をはじめ現代史に関する記事を多数発表。

著書に「消えた遺骨―フェザーストン捕虜収容所暴動事件の真実」(2005年)、『満州天理村「生琉里」の記憶―天理教と七三一部隊』(2018年)、『満州分村移民と部落差別―熊本「来民開拓団」の悲劇』『漂流するトモダチ―アメリカの被ばく裁判』(2018年)、近著に『731部隊「少年隊」の真実』(えにし書房)。

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