デジタル時代と朝鮮新報の役割/岡本厚
2026年07月28日 09:27 社会 主要ニュース朝鮮新報社を応援し共に歩む後援会(「イプニの会」)の発足会(6月27日・東京)で、岩波書店元社長で総合雑誌『世界』編集長も務めた日朝文化交流協会代表の岡本厚氏が来賓あいさつを行った。岡本さんは、デジタル時代における新聞の在り方と必要とされる情報の重要性を説き、朝鮮新報の記者・編集者と読者にエールを送った。
長い歴史を持つ朝鮮新報が、紙面を大きくリニューアルし、デジタルに重心を移して新しい展開をすると聞きました。
私は、岩波書店で44年間、仕事をしてきましたが、そのうちの35年間を月刊『世界』に携わってきました。『世界』は雑誌ジャーナリズムであり、朝鮮新報とは、媒体として大きく違いますが、抱えている悩みには共通するものも多かったと思います。
現在、新聞、テレビ、そして私がかかわっていた出版を含めて、あらゆるメディアが、困難を抱えています。それは日本だけでなく世界的な傾向です。何が困難かと言うと、端的に言って読者、視聴者が劇的に減少していることです。そして留まることなく、いまも日々読者、視聴者が減っていることです。
よく「活字離れ」と言いますが、若い世代のテレビ離れも甚だしく、「活字」というより「旧来のメディア」離れといっていいかと思います。広告は新聞・テレビから次第に離れ、いまやインターネット広告が新聞・テレビの広告を抜き、その乖離はどんどん大きくなっています。
新聞や出版でいえば、部数が急激に落ちています。
部数が減れば、取材にかける費用が出せなくなり、中身が薄く面白味のない記事になります。貧すれば鈍するの悪循環になり、さらに読者を失います。
どうこの問題を克服していったらいいのか。
デジタル化というのが多くの新聞や雑誌が雪崩を打って向かった方向です。たしかにいま、デジタル化しないではメディアだろうが何であろうが生き残れないことは事実ですが、デジタル化すれば何とかなるというようなものでもありません。比較的デジタル化で成功したと言われるのは、海外ではニューヨーク・タイムズ、国内では日経新聞だと言われています。あとはかなり苦戦している。
では、なぜうまく行ったメディアとそうでないメディアに分かれたのか。
私の感覚では「お金を出しても読む必要のある」メディアであるかどうか、によります。
つまりただデジタル化すればよいのではなく、読者にとって「必要な情報や論説」を提供できるかどうかによるのです。朝鮮新報の読者は限られるけれど、確実に「それを必要とする」読者がいます。それはメディアとしてなによりも大きいメリットです。
そして、読者が何を欲しているか、ということですが、実はそれこそ、取材をされている記者の方々やそれをとりまとめるデスクの皆さんの感覚によるのです。私も『世界』をやっていたとき、よく読者アンケートなどをして、読者が何を欲しているか聞いてみたことがあります。その結果は、(やや語弊がありますが)ほとんど役に立たないものでした。つまり読者自身が、どういうものを欲しているか、実はよく分かっていないのです。ある記事が出て、「そうだ、こういう記事が読みたかったんだ」と気づく、そういうものなのです。ということは、つまり作り手である皆さんが「こういう記事を読みたい」「こういう論説を読みたい」と考えることが、読者の「読みたい」につながるのです。
あらゆるメディアがそうですが、メディアがあることによって、そのコミュニティーがコミュニティーとして存在することが出来るのです。そのコミュニティーに共有されるべき情報が伝えられ、そのコミュニティーが抱える課題は何かが提示される。そのことによって、そのコミュニティーに属する人々が、自分はこのコミュニティーに属していることを自覚するのです。その意味で、メディアは非常に重要な役割を果たしています。
そう考えると、朝鮮新報の役割は重要です。これからのこと、楽観はできないし、むしろ悪戦苦闘の連続でしょう。しかしその悪戦苦闘は意味あるものだと思います。苦闘の中で、少しでも私の話を思い出していただければ幸いです。ファイト!
(朝鮮新報)