〈70年の自負、100年への自信⑪〉朝大教育の刷新に向けて
2025年10月29日 08:02 寄稿 主要ニュース「新世紀教育革命」とともに
朝鮮大学校は2026年に創立70周年を迎えます。当欄では、大学が歩んできた道のりや現在の教育内容、活躍している卒業生、70周年に向けた取り組みなどを多角的に紹介します。執筆は朝大の教員、関係者が担当します。(月1回掲載)
朝鮮の教育構造改革
金正恩時代の幕開けから間もない2012年9月、朝鮮の最高人民会議は、1972年に制定された従来の11年制義務教育制度を12年制へと改編する法令を制定し、14年から17年にかけて施行した。
法令制定から10年後の22年9月、金正恩総書記は、義務教育期間の延長にもかかわらず、学生の成長に目立った成果が見られないと指摘。国家の教育水準を世界の先進レベルへと引き上げるべく、教育構造の抜本的な改革を推進するよう指示した。以後、教育構造改革は、朝鮮の「新世紀教育革命」において最優先課題に位置付けられている。
ここでいう「教育構造」とは「教育事業に関係する各要素と部分の連関の総体」(民主朝鮮22年11月29日付)と説明されている。
世界の先進教育に追いつくためには、教育内容と方法、ひいては教員の資質や教育施設など、さまざまな要素が刷新されるべきだが、これら各要素の質を規定するのは、教育構造である。朝鮮では近年、有能な人材の育成と教育の質向上に向けて、教育先進国の経験や国内教育現場の実情についての調査と研究が進められ、あらゆる教育資源を最も合理的に活用しうる教育構造の構築が模索されてきた。
とくに高等教育(大学)部門では、社会主義経済建設において生じる新たな需要に対応すべく先端科学、境界科学(注:一般にいう周辺科学・非主流科学とは異なり、朝鮮では学際的な研究領域を指す)など、新領域開拓のための大学・学部が新設されている。その反面、供給過多の既存部門の大学・学部については、整理統合を進めている。
学際的な学びの実現
新世紀教育革命を推し進める金正恩総書記は、今年5月、総聯結成70周年に際して総聯活動家と在日同胞に寄せた書簡で、朝大に「在日朝鮮人運動の現実的要求と世界的な教育発展の趨勢に応じて、学制を整備改編」し、「同胞学生のだれもが志望する、権威ある名門大学」となるよう求めた。
朝大は創立70周年に向けて、教育の刷新を図るための議論を進めてきたが、複雑化する社会に対応しうる人材が備えるべき能力として、汎用的能力に着目してきたことは、前回、本欄において述べたとおりである。

朝大は有能な人材を輩出するため教育の刷新に努めている(写真は3月の卒業式)
従来、朝大では学部・学科ごとに学びの内容が細かく分かれており、いずれの学部も履修科目の7割を専攻科目が占めてきた。学生の汎用的能力を高めるため、今後、卒業までの履修科目のなかで、専攻科目の比率を5割ほどに抑え、汎用的能力の涵養に資する非専攻・一般科目の比率を高めていく予定だ。そのためにカリキュラム設計において学部間の垣根を低くし、学際的な学びを促進していく方針である。
とりわけ、1年次・2年次のカリキュラムは、一般科目を中心に編成し、社会・人文・科学技術・言語・教職など多様な分野から、学部の枠を超えて、学生自身の関心と志向に応じて科目を選択・カスタマイズできるようにする。
同時に類似の分野や内容が隣接する科目を統合し、科目数を大幅に減らすことで、教員が授業の準備に費やす時間を確保する。1コマ当たりの授業の質を高め、学生も受講に伴う授業外学習を徹底することで、学びの質を向上させていく。
初年度教育とキャリア教育の深化
少子化の進行により大学進学志望者がほぼ全員入学できる「全入時代」を迎えて久しい。
入学動機や学力、学習意欲など、学生ごとにばらつきが生じるなか、各大学においては、新入生が大学での学びと生活に円滑に適応できるよう支援する、初年度教育のプログラムを実施している。
朝大も15年ほど前から初年度教育を実施しているが、これまでは学部ごとに行われてきた。
今後は、専門チームを組んで内容をさらに充実させ、1年次に大学共通の初年度教育を実施していく。また、同胞社会の志向と実情を踏まえ、学生自身が自らの人生を主体的に設計しうるよう支援する、キャリア教育についても深化を図っていきたい。とくに学生の社会実践力を育成するために学部や専攻を問わず、語学系・経理系・ICT系などの資格取得をサポートする技能教育を強化していく。
このように、朝大は在日朝鮮人運動と同胞社会を担う有能な人材を輩出するために、学びのスタートと卒業後の未来をつなぐ手厚いサポートを教育プログラムに取り込んでいく方針だ。
最後に、汎用的能力を育てるうえで、コミュニケーション能力や課題解決力の向上は欠かせない。全寮制や担任制など「人のなかで人を育てる」という朝大ならではの教育の伝統は、今後も大切にしていきたい。
(李柄輝・教務部副部長、教授)
理論と実践の橋渡しとなる学びを/国際法を教えながら
「学生たちに生きた国際法を」ーー今年4月から朝鮮大学校の教壇に立つ私の理念である。
揺れ動く国際秩序の中で変化する法のダイナミズムを、学生たちが自らの問題意識として捉えること、とりわけ在日朝鮮人に対する人権侵害に抗うための、理論と実践の橋渡しとなる学びを築くことを目指している。

教壇に立つ金陽順助教
朝大卒業後、大学院で国際法を専攻した私は、武力紛争被害者に対する賠償問題を一貫して研究してきた。主に1990年代以降の大規模紛争を研究対象としているが、その根底には植民地過去清算へと繋がる糸口を探りたいという問題意識がある。海外での研究発表や共同研究などにも積極的に取り組みながら、国際法の新たな潮流をいち早く捉える努力を続けている。
一方、日本の大学で国際法を教える教員たちのコミュニティにも参加し、より良い授業づくりのヒントを得ている。受講者の意見をリアルタイムで集計できるツールやオンライン小テストなど、他大学の教員から教わった工夫を取り入れ、学生の理解度を可視化しながら双方向的な授業運営を試みている。
受講者の多くは、パレスチナ問題や戦後賠償、在日朝鮮人の権利保障など、身近な現実の中に国際法を学ぶ意義を見いだしている。私にとってそれは何よりの励みだ。国際法が、遠い国の条約や裁判ではなく、自らの現実と結びついた「生きた学問」として受け止められている証だと思う。
朝鮮大学校には同世代の若手教員が多く、学部の垣根を越えて、授業や大学の未来像について語り合うこともある。若い世代の力で、これからの朝大を支え、その未来を共に切り拓いていきたい。
(金陽順・政治経済学部法律学科助教)
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