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〈本の紹介〉右翼ポピュリズムのディスコース/ルート・ヴォダック

2023年04月26日 09:30 社会

恐怖をあおる政治を暴く/排除と差別の「常態化」

明石書店。03-5818-1171。 4950円(税込)。

本書は、ヨーロッパで顕著に見られる右翼ポピュリスト政党の台頭と興隆をめぐり、その躍進を支えるディスコース(言説)に着目。極右ポピュリストが煽動するナショナリズム、外国人排斥、人種差別、性差別、反ユダヤ主義、イスラム嫌悪などの政治的言説やレトリックを体系的かつ批判的に分析しながら、右翼勢力が台頭するメカニズムを明らかにしている。

2015年に出版された原書初版は各方面から高い評価を受け、ドイツ語(16年)、日本語(19年)、ボスニア語(20年)、中国語(22年)に翻訳された。本書は、21年に増補改訂版として出版された原著第2版の訳書である。第2版では、14〜19年の間に右翼および極右ディスコースに生じた変化を政治文化の新しい特徴の一つと位置づけ、議論の中心に据えている。論点の一つは、「主流政党の右傾化」。つまり、前述の期間に、欧米の政治的傾向がさらに右へと移行したということだ。

筆者は、右翼ポピュリストの排外主義、侮蔑的で差別的な言説が、正当なものとして徐々に受け入れられている昨今の状況を危惧。その現象を「極右ポピュリズムの恥知らずな常態化」と表現しながら、「新しい常態」への進展を防ぐために何ができるかを読者に問いかけている。

最終章では、市民らの恐怖や不安、社会における危機や脅威を煽る政治の「罠」に陥らないための処方箋を提示。選択肢として、▼極右ポピュリズムを批評し、その正体を暴くメディア報道の様式の発展、▼恐怖の政治に抗する連帯の政治、▼ヘイト扇動を「思想の自由」とする、論点すり替えへの断固とした反論などを挙げている。

訳者はあとがきで、日本は欧米における「恐怖をあおる政治」と無縁ではないと強調している。日本が防衛力の強化、防衛費の大幅増額、原発の再活用に動き出している過程では、近隣諸国に由来する「恐怖」が巧みに利用され、「現実への対処」の必要性が呼びかけられている、と。これは、欧米政治で加速する「変化」と同様のものが、日本でも起きていることの示唆に他ならない。

(李永徳)

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