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「多様性」と「自分らしさ」/人権協会の出張授業、初テーマで理解促進

2022年12月06日 11:50 民族教育

在日本朝鮮人人権協会性差別撤廃部会と在日本朝鮮人東京人権協会による出張授業が1日、神奈川中高で行われた。高級部1、2年生を対象に、人権協会の康仙華常任理事(弁護士)、朴金優綺部長が授業を行った。人権協会は2018年から各地の朝鮮学校で法教育や人権教育に関する出張授業を行ってきたが、今回の授業で扱われたテーマ「多様性について考えようver.2」(高1)、「『女らしさ』『男らしさ』から『自分らしさ』へ」(高2)はどちらも初めて。高級部1年生と2年生はそれぞれの授業を通じて、多くの気づきを得ていた。

「虹色」の社会に

高級部1年生では、人権協会の康仙華常任理事が授業を行った

高1の授業「多様性について考えようver.2」で講師を務めた人権協会の康仙華常任理事(弁護士)は授業の冒頭、さまざまな色がグラデーションを成す旗を見せながら、生徒たちの関心を引いた。

「これは、セクシャルマイノリティの尊厳と社会運動を象徴する旗、レインボーフラッグと言います。多様なセクシュアリティや文化、価値などが、グラデーションのように融合した虹色の社会になればという思いが込められた、理想の象徴なんです」

こう語りかけた康仙華さんは、性を構成する要素には、①心の性、②体の性、③好きになる性、④表現する性があると述べ、それらの組み合わせによって幾通りもの性の在り方があることを図を用いながら説明。その上で、セクシャルマイノリティを指す言葉として、「レズビアン(女性同性愛者)」、「ゲイ(男性同性愛者)」、両性を性愛の対象とする「バイセクシュアル」、こころと体の性が一致しない「トランスジェンダー」などを指すLGBTという用語が多用されてきたが、「性的指向」(sexual orientation)、「性自認」(gender identity)のアルファベットの頭文字を取ったSOGIという用語を使うことで、セクシャルマイノリティとそうでない人たちを区別せず考えることができると語った。

講師の話に聞き入る高級部1年生たち

生徒たちはこのような認識に基づき、セクシャルマイノリティへのいじめや差別に対して考えを深めるため、同問題を扱った映像を視聴。差別を受けている当事者が自身の性問題を他者に明かすカミングアウトの難しさ、当事者の性問題を第三者が本人の同意無しに暴露するアウティングの懸念点に関しても学んだ。その他にも、トランスジェンダーに関するエピソードを聞いた上で、ワークシートを用いながら、セクシャルマイノリティ当事者の心境や周辺人物らの対応などに思いを巡らした。

最後に、康仙華さんと生徒たちは、学校や社会全般において性別に違和感を持つ人がいないことを前提に設けられた、または異性愛が前提となっている空間や規則について意見を出し合い、それらの改善法や対応策について話し合った。康仙華さんの一言一言に耳を傾ける生徒たちの姿からは、一人ひとりの権利が尊重される社会とは何かについて、真剣に向き合おうとする姿勢が伺えた。実際に、生徒たちのアンケートには、このような感想が残されていた。

「これまで周囲の人たちに対し、無意識に差別的な発言をしていなかったか、みる機会になった」「たくさんの人たちが問題意識を持ち、多様性が認められる社会を作っていくために、もっと学ばなくてはならないと思った」

先入観をなくせば

高級部2年生では、人権協会の朴金優綺部長が授業を行った

一方で高2の授業では、人権協会の朴金優綺部長が「『女らしさ』『男らしさ』から『自分らしさ』へ」というテーマで授業を行った。

朴金優綺さんはまず、生徒たち自身が持つジェンダーバイアスへの気づきを促すため、いくつかのクイズを出題した。

1番目のクイズでは、交通事故が起きた際、病院で負傷者の手術にあたった「経験が豊富で有能な外科医」の性別に関して話された。朴金優綺さんは、「皆さんは『有能な』『外科医』」と聞いただけで、自然と男性を連想しませんでしたか?」と問いかけながら、このような「性別に基づく無意識的な先入観(ジェンダーバイアス)」は日常のあらゆるところに隠れていると説明。端的な例として、「保母さん」、「看護婦」とそれぞれ呼ばれていた保育士、看護師の職業名女性が子育てをすることが前提となっているかのようなトイレのマークなどを挙げた。

2番目のクイズでは、家庭内で家事に追われている女性と、その女性に対して「忙しそうだね。助けようか?」と声をかける男性の姿を描いた絵を用いた。男性の言葉に腹を立てている女性の姿を指差しながら、朴金優綺さんは「家事や子育ては夫婦共同の仕事という認識が男性にないと思われるため、女性は怒っているのかもしれません」とした。

高級部2年生たちは授業を通じて、ジェンダーバイアスに対する気づきを得ていた

さらに、巷で使われている「女子力」という言葉について触れ、その意味合い自体が「女性に押し付けられている役割」に影響されているのではないかと言及。事前に生徒たちから集計した「女らしさ」「男らしさ」に関するアンケート結果を用いながら、女子と男子の「してもいいこと」や「してはいけないこと」、「期待されていること」や「期待されていないこと」には大きな差異があると語った。生徒たちは、自分たちの考えにも「先入観」が潜んでいることに気付かされ、興味津々な様子で話に聞き入った。

朴金優綺さんは他にもクイズやCM、実際に社会で起きた事件の解説などを通じて生徒たちの関心を喚起しながら、「『女性あるいは男性だからこのように行動しなくてはいけない』という期待に応えようとするあまり、つまりジェンダー規範に捉われるあまり、女性も男性も『自分らしさ』を抑えこむことになってしまう』」とし、こうした規範や先入観をなくしていくことが「誰もが大切にされ、個々人の権利が尊重される社会づくり」に繋がっていくと呼びかけた。

高2の生徒は授業後、「以前から、女の子なのだから〇〇しなさい、〇〇をできなくてはならないと言われ続け、ずっとモヤモヤした感情を抱いていた。でも、今日の学びを通じて、自分の価値観は間違いではなかったと気づけた。人権協会の授業を受けられて本当によかった」と語った。

また、アンケートには「先入観に基づく発言や動は、他者を傷つけてしまうだけではく、自分自身の可能性も制限してしまうと気づけた」「無意識な固定観念は、先生や親たちの中にも潜んでいるかもしれない。大人にもこのような授業を受けてもらいたい」と、生徒たちの率直な心境が綴られた。

人権協会による神奈川朝高での出張授業は今回で7回目。同校では、新たな価値を創造する人材の育成という教育理念のもと多様な学習機会を設けており、12月9日にも中1と中2、3を対象とした人権協会による出張授業を行う。人権協会では、今回新たに設けたテーマをはじめ、さまざまな内容の出張授業を各地の朝鮮学校で積極的に実施していこうとしている。

(李永徳)

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