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〈未来志向の自主発展へ〉金正恩体制の朝鮮を訪問して/菱木一美

2012年10月24日 13:52 主要ニュース 共和国

国益に合致 日朝正常化

首都平壌の中心にある万寿台の丘。並んで立つ金日成主席と金正日総書記の新銅像が陽光に映える。空の彼方を見つめる両指導者のほほ笑みのまなざし。朝鮮民主主義人民共和国の創建64周年記念日に当たる9月9日、筆者は銅像の前にたたずんでいた。新たな最高指導者、金正恩第1委員長の下でこの国はどのような発展をめざすのか。その答えを見出すための訪朝旅行だった。

平壌市内倉田通りの高層住宅群とバス待ちの住民たち

▲人民と兵士の中へ

この丘からは、完成して間もない倉田通りの高層住宅群が手に取るように見える。「人民生活の向上」を最優先目標に掲げるこの国の壮大なモデル住宅街だ。「最高40階、一戸当たりの居住面積は100㎡から160㎡に及ぶ」と同行の当局者。

その高層住宅に入居した三家庭を金正恩第1委員長夫妻が9月4日に訪問した。家族らと談笑する金正恩第1委員長夫妻の表情をホテルのテレビで見て「ずいぶん自然だな」と感じる。「あれは電撃訪問。教員や労働者の家族たちは大騒ぎでしたよ」。平壌の報道関係者が愉快そうに訪問劇の舞台裏を披露してくれた。

平壌駅前広場の大型テレビ・スクリーンには、大勢の女性兵士たちと一人ずつツーショットの写真撮影に応じる金正恩第1委員長の笑顔が広がっていた。

「このような光景を楽しめるのは、明るい未来をめざす強盛国家の土台を築いてくださった金正日総書記のおかげです」。当局者の説明に、金正恩第1委員長が7月26日に発表した「金正日愛国主義具現に関する談話」を思い起こす。談話には金正日総書記が苦難の90年代、食糧不足に苦しむ人民を思い「心の中で血の涙を流した」ことが切々と語られている。その中で総書記は未来の祖国と人民のため、貴重な国家資金を先端科学技術の自主開発に投じる苦渋の決断をしたという。「総書記の愛国の意思が下した最上の選択」は今、確かな成果をもたらしつつある。

完全自動化の大同江果実総合加工工場

▲めざすハイテク立国と国際化

その一例を平壌近郊の大同江果樹総合農場に見た。広大なリンゴ畑に隣接する果実総合加工工場ではコンピューター完全制御の生産ラインがフル稼働していた。制御センターを統括する金革鉄室長は金策総合工業大学出身、26歳の青年技術者だ。金正恩世代の若い先端科学技術者群のめざましい台頭は、この国の将来的可能性を示唆しているようだ。

社会科学院経済研究所の李基成教授は、朝鮮がハイテク重視の知識産業時代へ向かうと確言し、全産業分野でCNC(コンピューター数値制御)化が進められている現状を詳しく説明してくれた。

対外経済戦略については、「自主性、主体性の堅持」を前提に①市場経済への積極対応②合営・合弁の拡大③実利、信用第一の重視―を挙げ、国際化への弾力姿勢を強調した。「自主、平和、親善の理念の下に国の対外関係を拡大し、発展させる」ことをうたった金正恩第1委員長の論文(4月20日)に沿った道筋だ。

平壌市内のイタリアレストランは外国人客で大盛況

▲日本外交の混迷指摘

平壌の順安国際空港は欧米、アジア、中東、アフリカ諸国などからのビジネス客や観光客で活気づいていた。世界の160カ国以上の国家と国交を結んでいる朝鮮としては当然である。米国からの旅行者も目につく。市内ホテルのロビーではさまざまな外国語が飛び交っていた。「国際孤立の閉鎖国家」という日本の一般認識とはほど遠い朝鮮の姿だ。

平壌で存在感が薄いのは日本だけのようだ。「米朝正常化が先行し、南北朝鮮の協調が進んだら、無為無策の日本はどうするのか」と考えさせられる。

外交部の当局者は、日朝正常化の阻害要因に日本側の「政策意思の欠如」を挙げた。ある幹部当局者は、対米追随で自主性を失った日本外交の混迷を指摘した。これらの発言は日朝関係の不調だけでなく、昨今の日本と周辺諸国との危うい関係の原因をもあぶり出している。

互いに自主性を尊重し、平等互恵の立場からウィンウィンの関係を構築する。そうした観点から日本の政治首脳部が朝鮮の発展に積極協力する意思と政策を鮮明にするなら、正常化をめぐる諸懸案は容易に解決するだろう。それが日本の国益につながると確信できた旅だった。

(広島修道大学名誉教授 共同通信元外信部長、写真も筆者)

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