公式アカウント

〈朝鮮と日本の詩人 14〉伊藤信吉

2002年に95歳で永眠した伊藤信吉は、私の知るかぎりでは、明治以後の日本の詩人のうちでもっとも永く生きた詩人である。彼が身近に接した詩人は島崎藤村、萩原朔太郎、室生犀星、高村光太郎ほか十指に余り、そ…

〈朝鮮と日本の詩人 11〉佐多稲子

朝鮮の少女達よ お前の白い上衣はこの夜更けに寒くはないか 今夜は月があまりに冴えて氷の中にいるようだ 停留場の石だたみの上にいると しんしんと冷気が爪先を打ち敲く お前たちはそこで互いに立ち寄り 空に…

〈朝鮮と日本の詩人 10〉佐藤惣之助

青き大同江のほとりに立ちて 何ごとと知らず涙そそぐは いかなる旅人のならわしぞ 大同門外 数尺の月によづべくもなく 秋風しろき乙密台のあたり さんさんたる星のみかがやける まこと幼子の如くあざらけく …

〈朝鮮と日本の詩人 9〉白鳥省吾

峠を越えてくる若者に遇った 八月の日は熱く 落葉松に鶯の啼く峠を 喘ぎ喘ぎ登ってくる紺の法被姿は 日本の労働者そっくりであるが 道をきいたそのアクセントに 異邦人の響きがある  

〈朝鮮と日本の詩人 8〉中原中也

朝鮮女の服の紐 秋の風にや縒れたらん 街道を往くおりおりは 子供の手をば無理に引き 額顰めし汝が面ぞ 肌赤銅の乾物にて なにを思えるその顔ぞ -まことやわれもうらぶれし こころに呆け見いたりけん. .…

〈朝鮮と日本の詩人 7〉丸山薫

「いつ頃か、姫は走っていた。姫のうしろを魔物がけんめいに追っていた。彼女は逃げながら髪に挿した櫛を抜いてほうった。櫛は魔物との間に、突兀として三角の山になった。魔物はその山の陰にかくれた。そのまま姫は…

〈朝鮮と日本の詩人 6〉三好達治

望の夜の月をまちがて いにしへの百済の王が 江にのぞみ山にむかひて うたげせし高どのの名は この丘のうへにのこりて 秋されば秋の雨ふり そばの花をりしも白き 畑なかにふるき瓦を ひろはんとわがもとほり…