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〈在日発、地球行・第2弾 3〉朝鮮と国交断絶、民心はいかに/ヨルダン

2018年05月23日 14:30 在日発、地球行

正式名称:ヨルダン・ハシェミット王国。首都:アンマン。人口:987万人。面積:約8.9万㎢(朝鮮半島の約0.4倍)。言語:アラビア語、英語。民族:大半をアラブ人が占める。人口の約7割がパレスチナ系。渡航方法:朝鮮国籍の筆者は、駐日大使館で申請日の翌日にビザ取得。カタール・ドーハのハマド国際空港でトランジット。トランジット時は入国手続きの必要無し。

ジーザス・クライスト!(なんてことだ!)

悠久の歴史を感じるペトラ遺跡

今年1月に思わぬニュースが飛び込んできた。“ヨルダンが朝鮮との外交関係を断絶”。筆者がヨルダンを訪れたほんの数か月後の出来事だった。“ジーザス・クライスト!(なんてことだ!)”。失礼、ついあの国で聞き飽きたはずの言葉が口をついて出てしまった。

1年前に東京のヨルダン大使館に向かったときのこと。渡航経験の豊富な大使館職員と雑談する中で興味深い情報を入手した。同国における観光スポットの2大巨頭と言えばペトラ遺跡と死海だが、職員が最もおススメするのは「ワディ・ムジブ自然保護区」だという。

早速、知る人ぞ知る秘境へ出発だ。場所はヨルダンとイスラエルと接する死海の近く。ガイドブックには死海からの交通手段はタクシーのみ、と書いてある。しかしここでタクシーに頼っては「貧乏旅行」の名が廃る。残された手段は、あれしかない。

死海の塩分濃度は海水の10倍の30%。浜には天然の塩の結晶が。

道路脇で仁王立ち。右手を上げて親指を突き出す。粘ること30分、1台の車が止まった。車中の外国人カップルに行き先を告げると「自分たちもそこへ向かうところ」と快く乗せてくれた。人生初のヒッチハイク成功に思わず心の中でガッツポーズを決めてしまった。

「見知らぬ人の車に乗るなんて君はなんて冒険好きなんだ~、ジーザス・クライスト!」

プエルトリコ出身のレネは陽気でよく喋る。喋りながら後部座席を振り返る。ハンドルを握ったままだ。危なっかしいったらありゃしない。

「ノース・コリアだって? うそだろ!? ジーザス・クライスト!」

証拠として見せた朝鮮パスポートに驚く彼は、なぜかお返しにと自分のものを取り出してみせた。それは米国パスポートだった。プエルトリコは「国」ではなく米国の自治連邦区(Commonwealth)、つまり海外領土となっているためだ。

2度目のヒッチハイクはヨルダン人の車に。英語は通じなかったが気持ちは通じた。

1898年、スペイン領キューバの独立戦争に介入した米国はスペインとの米西戦争で勝利。結果的にキューバを「保護」下に置き、スペイン領であったフィリピン、グアム島、そしてプエルトリコを自国のものとした。

現在、プエルトリコの人民は米国市民権を持っているが国家元首とされる米国大統領の選挙権は与えられていない。また民意に反して米国の基地や債務が押しつけられている。事実上の植民地と言っても過言ではない。米国パスポートには帝国主義の本質がありありと表れていた。

「日本に住んでいるのにノース・コリアン? 君はスパイか!? でもプエルトリコには入れないね、米国にコントロールされているから、ハッハッハ~、ジーザス・クライスト!」

とんだ皮肉だ。おかげで退屈せずに目的地までたどり着けた。

あふれ出る怒りと憂い

リバートレッキングを楽しむレネ(右から2番目)とガールフレンド

雄大な渓谷が形成されているワディ・ムジブ自然保護区では渓流でのリバートレッキングが楽しめる。奥地へと足を踏み入れていくと清流はいつしか濁流に、川のせせらぎは轟音と悲鳴に変わった。

「ハニー! 大丈夫かい!」。泳げない彼女の救命胴衣を掴み、必死の救出活動にあたるレネ。このアクティビティーによってカップルの絆はよりいっそう深まったようだった。

2人に感謝の言葉を告げて別れると、どっと疲れが出てきた。ゆっくり体を休めるか。安宿近くのカフェに入り2階のテラス席に腰を下ろした。そこでイランで「中毒」になった水タバコをくゆらせながら夕暮れ時の街中をぼーっと眺めていた。

イランで「中毒」になった水タバコに、ヨルダンでもお世話になった

「ヨルダンでの旅はいかがかな?」

声の主は、横に座る品のいい紳士だった。遺跡に大自然、伝統料理、人々の優しさなど全てに大満足という筆者の感想に満足げな表情を浮かべた。聞けば、ある省庁の要職を務めているというから驚きだ。このような機会は滅多にない。突っ込んで政治外交的な話を持ちかけてみた。

すると次から次へと現体制を非難するではないか。中東国家でそのような批判行為が許されるのかと、こちらがヒヤヒヤして声のボリュームを下げるほどだった。しかし本人はまったく意に介していない。

「この国に民主主義は存在しない。たとえ多くの市民が声を上げようが国を動かすことはできない」。「巨大な力」によって軍や警察は牛耳られ、国王ですら“自分よりも強い者がいる”と打ち明けているという。その正体について、横の紳士ははっきりと口にした。「米国だ」

堰を切ったように彼の思いが流れ出た。アフガニスタン、イラク、リビア、シリアの国名をあげながら米国の横暴が中東諸国の未来を壊していると憂い、パレスチナ問題が米国とイスラエルによって混迷を深める状況に「アラブの民衆はいつも心を痛めている」と。そして募りに募った怒りを一気に吐き出した。「米国なんて、くそ野郎! 地獄へ堕ちろ!!」

たまたま出くわした政治集会。この国に「民主主義」はあるのだろうか

ヨルダンが朝鮮との国交を断絶した背後で、米国が糸を引いているのは火を見るよりも明らかだ。今月1日には安倍首相が首都アンマンでアブドラ国王と会談し、国交断絶に踏み切ったことを評価した。朝鮮半島の平和ムードに逆行する外交ぶりには心底呆れ返ってしまう。

一方でヨルダンの人々は今回の出来事についてどのように評価しているのか気になり、前述の政治家に連絡を取ってみた。以下にメールの内容を記す。

「申し訳ない。ヨルダン政府は米国という主人のために働く従業員のようなものだ。…私は核兵器で自国の平和を守り、米国と対等に渡り合う朝鮮を支持している」

最後にこう付け加えられていた。「これは私の意見ではない。民衆の意見だ」。

(李永徳)

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