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洗練された温かなストーリー/舞台「パッチギ!」が26日まで上演中

2017年11月22日 16:59 文化

“お前と俺がまず団結するんだ”

昭和芸能舎版「パッチギ! ~東京1968~」が、11月21日から26日まで東京・赤坂で上演されている。

ヒロイン・キョンジャは吹奏楽部から舞踊部に、場所は京都から東京へ―。

09年新国立劇場で舞台化された同作品は、より一層洗練された青春ストーリーとなり今年帰ってきた。

台詞には、朝鮮学校で普段から聞きなれた「アンニョンハシンミカ」の挨拶に、「支部長(支部委員長)」「タンギョル(団結)」をはじめ「マルマン」や「モランボン」など在日同胞の生活感がにじむ細かなアレンジが施され、日本人と在日の役者が客席へ向け投げかけるメッセージは、現代にも共通する朝・日の青年たちの葛藤や悩み、切実な思いとして突き刺さる。

68年、東京・荒川の荒川東高校に通う康介は、東十条にある朝高を訪ね、舞踊練習に汗を流すキョンジャに一目ぼれをした。しかしあろうことか、キョンジャは同校の番長・アンソンの妹。キョンジャと仲良くなりたい康介は、必死に朝鮮語や歌を学び、彼女に近づく術を探す…。

「筋は基本変わってないけど、やり残したことや、もっとこういう描き方があったかなと今だからこそ思えることがあって。日本人と朝鮮人、今もずっと変わらずに横たわる川を乗り越えたいという思いで、1年前もう一度作品を書いてみようと思った」(脚本家・羽原大介さん)

空前の大ヒットに加え、その翌年日本アカデミー賞優秀作品賞を受賞した映画版の公開(05年1月)から12年。今作で至るとこにちりばめられた工夫の数々。それらは、公開を前に、三河島の同胞料理店などの地域同胞社会を訪ね、綿密な事前取材を重ねたことで生まれたものだった。

中でも、アンソンが帰国を控え、トンネの同胞たちが宴会をひらくシーンは見もので、突如現れた警察二人が、「パピプペポを言ってみろ」「十円五十銭いえるのか」と朝鮮高校生を挑発する場面がある。これは何やら94年前の関東大震災時の扇動での朝鮮人虐殺をほうふつさせる。

「警察には手を出すな」と歯を食いしばる同胞たち、差別を現実に突きつけられた康介の絶望と衝撃を通して、この国の変わらぬ現実を告発して見せた。

初日の公演を控え、公開ゲネプロに足を運んだ鶴松さん(50代日本人男性)は、「今の時代にこの作品を上演することを思うと涙が出るほどだった。もう当時を知らない人も多いと思う。だからこそより多くの人に足を運んでみてほしい! これに尽きる」と目を潤ませた。

同じく会場を訪れた照井遥さん(25)は、「朝鮮と日本の関係は正直あまりわからないことが多かった。今日舞台を見て、就職や住まいなど何かしら差別にあわれている方が居ることを知り、考えさせられた」と胸のうちを語った。

制作関係で働く鶴指さん(男性)は、「アレンジも効いていて、映画とはまた違った良い味があった」としながら「笑いあり、友情あり、恋愛あり、世界や日本がこんな状況でも、これを見たら皆仲良くなるんじゃないかな、そう思わせてくれる作品。これからも応援したい」と微笑んだ。

09年の舞台版に続き、今回振り付けを担当した舞踊家の金有悦さんは、若い役者たちを指導をするにあたり、近代の朝・日の歴史を教えることから始まったと説明した。金さんは「世代が変わると、過去、何があったのかを実感として捉えるのは難しい。そんな中でいま、日本の役者・同胞の役者が共に舞台に立ち演じることは意義があると思う。在日同胞たちにもいっぱい見てもらいたい」と訴えた。

「『パッチギ!』という作品に出会い人生が変わった」そう話す羽原さん。

「康介が、最後クライマックスのシーンでキョンジャへ言うことばあるじゃないですか。『切なさ、悲しさ、祖国統一への君の思いをわかろうとしている日本人もいるということを知ってほしい。けどいま僕には歌うことしかできないんだ』これって僕の思いなんです。芝居や作品をつくることしかできない。やり続けることが大事だと思うから」

終演後、客席を見渡すと、涙を流し拍手を送る人々の姿が。舞台は26日が千秋楽、舞台へ足を運び、役者たちのみなぎるパワーと作品が織り成す力強いメッセージを受け取ってみてはどうだろうか。

「すぐに団結するのはむずかしい。だからお前と俺がまず団結するんだ」(舞台「パッチギ!」・チェドギの台詞から)

(韓賢珠)

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