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〈取材ノート〉零れ落ちる被害者の生

取材ノート「私たちは『記憶しよう』と言う。でも『何』を記憶するのかについて、実は、よく知らない」

写真家・安世鴻さんの言葉にはっとした。

「日本軍性奴隷制問題」――。戦時性暴力に反対する連帯の象徴? 外交上の懸案問題?さまざまな議論の中、画一化されがちな「被害者」という存在。

安さんは、時として零れ落ちてしまう、被害者それぞれの「生」をたどり、記録することに重きを置いてきた。

「被害の実態だけではなく、現在の生活や生きてきた過程について聞きながら、彼女たちの人生を振り返る。具体的な人間の生を記憶することが大事だ」

写真展「重重―消せない痕跡Ⅱ」のブックレットを開くと、被害者の証言の下に、安さんのコメントが添えられている。

“暗い階段を半分上ったところにあるおばあさんの部屋の片隅には、お祈りのための十字架とイエス像がある。大きな窓から差し込む光を受けて祈りを捧げるおばあさんの姿は美しかったが、胸が締め付けられた―Lucia Lurizさん”

“自分の子どもを産めなかったおばあさんは、年を重ねるにつれて子どもに対する執着が大きくなっていった。統合失調症になってからは、子どもの写真を部屋に貼っている。老人ホームの院長がプレゼントした人形を赤ちゃんだと思って話しかけ、眠るときもその人形を抱いていた―リ・スダンさん”

誰かの娘、そして母だったかもしれない、女性たちの生が浮かび上がる。

(宥)