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佐川亜紀詩集「さんざめく種」をよむ/鋭敏な詩人的感覚で社会の不条理を剔抉

この詩集は全4部で29編の詩と「後書」から成り立っている。いずれの作品も北東アジア的視点から今日の日本社会の不条理を、鋭敏な詩人的感覚で剔抉(ていけつ)したアンガージュマン(政治的・社会的参与)の精神に貫かれた名吟である。この詩人がテーマにしているのは①朝鮮問題②反戦平和③原爆・原発④資本主義の悪徳⑤歴史修正主義⑥沖縄等々である。まずこの詩集に収められた作品の逐行(ちくぎょう)批評してみる。

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冒頭に収められた全29行の「水笛」はこの詩集が編まれた必然を明示している。

「凍えた頬のこわばり/世紀の氷点下を体の芯に残して/傷口が縫合できない分断線/人間の休戦により生い茂った緑の帯」

「朝鮮語の詩を書いて日本の監房で獄死した若き詩人/日本語の棘が再び増して/新たな傷を両側にばらまく」

「言語は壁であり沃土であり/鉄条網にも命の綱にもなる/詩は祈る/壁を越えて/言葉の糧を届け合うことを」

この詩は、朝鮮の分断に日本は責任を負うべきであると指弾し、特高の時代に殺された尹東柱への哀悼にからめて、自らの詩が復活した日本軍国主義と敵対することを明らかにしている。

全28行の「神の杖」にはつぎの詩行がある。

「高額の再生医療で生き続ける極少数の超富裕支配層は/死なずに/軍需産業の株価を見ている/武器輸出に踏み切った島国は/もはや人影もまばらで/核兵器 ロボット兵器の実験場と化した」

ここでは軍産一体でなければ生きのびることができない、凶暴化した末期資本主義を断罪している。

「怒りのほんとうの対象は誰なのか/ねじ曲げられる言葉/敗戦でも懲りない/日本中を焼け野原にしても懲りない/アジアの死者を隠す/『慰安婦』女性の心身を苛んだ日本国家の軍靴を/認めてこなかった日本人民の弱さ」

右の詩行は160行の長詩「聖なる泥/聖なる火」の中の7行である。これはアジア・朝鮮侵略を正当化する歴史修正主義への鋭角的批判であり、心ある日本人の一人としての詩人の自戒が込められていて読む人の胸を打つ。

「一九五〇年六月二十五日に始まった朝鮮戦争/六月の赤い雨を/金の雨に変え/経済成長にひた走り/いま金のひでりにあえぐ/おぞましい日本/朝鮮半島を侵略支配した足跡を隠したい日本/人々の記憶をねじ曲げる/沖縄の鉄の雨を/くり返し基地に貯めて土を荒らす」(全31行「六月の赤い雨」の部分)

この詩行については解説が不要なほどテーマが明確である。

折角の名吟を寸断した非礼を詫びながらも、佐川亜紀という詩人が硬質の叙情詩人であり詩作において、メタフォーを自在に駆使することで独自のリズムを紡ぎ出しポエジー・ピュール(純粋詩)を止揚しアンガージュマンに昇華させた詩人であることを再確認した思いである。

佐川亜紀が在日朝鮮人の人権を守る運動に積極的にアプローチし、南朝鮮の詩人との交流を深め南北統一のために寄与している詩人であることを付記しておく。(卞宰洙 文芸評論家)