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〈取材ノート〉宝物のような体験

2017年06月05日 14:48 コラム

取材ノート旅には予想外な展開がつきものというが、4月の京都出張でまさにそんな体験をした。

帰りの予定を延期し、急きょ決まった夜からの取材。この日取材対象となった鄭禧淳・女性同盟京都府本部顧問の好意で、泊まるあてのなかった筆者は顧問宅に泊めていただくことになった。

夜9時ごろから始まる取材もこれまであまり経験がなかったことだが、波乱万丈の顧問の半生に耳を傾け、笑い涙し、これらすべてをこぼさずに書き留めれるだろうかという不安が頭をよぎったりもした。

原稿にはおさまらなかったが文字に記すべきエピソードがある。それは顧問が、京都コリアン生活センター「エルファ」を立ち上げた経緯について。その直接のきっかけとなったのは、「介護施設に朝鮮のハルモニがいるんだけど言葉を話せない。失語症かもしれないので一緒に来てくれないか」という、ある福祉事務所からの一本の電話だった。

「すぐにハルモニに会いに施設に向かったよ。ウリマルで『ハルモニ!』言うたらべらべら喋るんよ。ほいでもう手つかんで、一緒にアリランを歌ったりね。どうしようもなく嬉しくて、2人でぼろぼろ涙を流した」

同胞社会の基盤を築いた恩義ある人たちが晩年を笑って過ごしてほしい―。顧問の思いを聞ける記者という仕事に、心から感謝し誇りを持てた、そんな宝物のような体験だった。

(賢)

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