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〈みんなの健康Q&A〉ことばの発達をうながす

2016年12月09日 09:38 文化・歴史

興味のあるものを利用して

「他の子と比べてことばが遅い気がする」「3歳になるのにいつになったらしゃべるのかな」「落ち着きがなくて全然話を聞いてくれない」

子どものことばを心配しているお父さんお母さんは少なくありません。

「育て方が間違っているのかな」「子どもはかわいいけれど一緒にいる時間はどうしたらいいか」「私って子育て向いてないな」

子育てに関する科学や学問が進歩し、インターネットから簡単に情報が得られる便利な時代になりましたが、それらに振り回された経験はありませんか。

実は、今も昔も子育ての基本は、全く変わっていません。

食べさせて、着せて、寝かせて、大きくする。健康と生命を守るために必要な世話をして、気を配り、手をかけ、目を離さずにいること。

とてもシンプルなことです。

ことばについてもそれと同じように、あまり考えすぎずに、親子で楽しい時間を過ごしていれば、自然にコミュニケーションが育ち、ことばが育ってゆくのです。

今回は、そのことばとコミュニケーションの発達の準備期間と言える前言語期という大切な時期のかかわりについて、お話ししたいと思います。

◇ ◇ ◇

現在、ことばや心の発達において「共同注意」の関係が重視されています。

この「共同注意」とは「二人以上の人が同じものに注意を向ける」ことを指します。

例えば、話し相手の視線につられて同じ方向を見ることは、共同注意が機能しているといえます。これは生後9カ月ごろからみられるもので、ことばとコミュニケーションが育つ上で大変重要な役割を果たします。

飛行機が空を飛んでいるときに、「ホラ、飛行機よ! 飛行機!」と飛行機を指さして教えることがあると思います。それに反応して子どもが飛行機を見ると「あれがヒコウキか!」とことばを覚えるという仕組みです。

しかし、大人が見てほしいところに毎回子どもが視線や注意を向けるとは限りません。

特に、自閉症スペクトラムの子どもは、この共同注意が苦手と言われています。

なかなか視線が合わない、名前を呼んでも反応しないなどの特性により、共同注意が成立しにくく、ことばの発達の遅れの一因となることがわかってきています。

では、自閉症スペクトラムの子どもと共同注意を成立させるにはどうすればよいでしょうか。

まずは子どもの興味あるものや好きな遊びを見つけて、様子を伺いながらその遊びに交ぜてもらいましょう。

例えば、子どもが好きな絵本を見ている時に、見ているものの名前をいうのもいいと思います。自閉症スペクトラムの子どもはシンボルやマークを好むことが多いので、それらが載っている冊子でも構いません。

無理に注意を向けさせるのではなく、子どもが視線を向けているものに「○○だね」と声をかけてあげることで自然に共同注意の機会は作れます。

これは自閉症スペクトラムの子どもに限ったことではありません。

子どもが興味を向けているものについて話しかけあげること、これがことばかけの鉄則です。

先ほど例にもあげたのですが、共同注意の成立に有効なものの一つに絵本があります。

子どもが好きな絵本は繰り返し読んであげてください。

「また同じ絵本?」、「こっちの絵本にして!」などと制限したり押し付けてしまうと、絵本が楽しくなくなり本そのものへの興味が失せてしまうかもしれないからです。

ことばを早く覚えさせる道具としてではなく、一緒に楽しんだり悲しんだり、気持ちを分け合うことが大切です。

大人と子どもが楽しい時間を共有した経験が、結果的にたくさんのことばを覚えることにつながるのです。

◇ ◇ ◇

次に、日ごろの生活の中から子どものことばを豊かにするかかわりをいくつか紹介します。

・子どもの行動をそのまままねる。(ミラリング)

例)子どもが手をパチパチしたとき、大人も同じように拍手をしてみせる。

・子どもの音声やことばをそのまままねる。(モニタリング)

例)子どもが「マママ」と発声したとき、大人も同じように発声する。

・子どもの行動や気持ちを言語化する。(パラレル・トーク)

例)子どもがおやつを食べて幸せそうな顔になったら、「おいしいね」と言う。

・大人自身の行動や気持ちを言語化する。(セルフ・トーク)

例)探し物をしながら「○○どこかなー」と言う。

・子どもの言い誤りを正しく言い直して聞かせる。(リフレクティング)

例)子どもの「(ヒ)コーキ」に対し、「違うよ!」と否定することなく「ほんとだ、飛行機だね!」と返す。

・ 子どものことばを意味的、文法的に広げて返す。(エキスパンション)

例)子どもが「ぶーぶー」といった言葉に対し、「大きいぶーぶーだね」と返す。

無意識にできているものもあると思います。

あまり構えずに、食事やお風呂、お出かけなど普段の生活の中で自然にことばをかけるだけで十分なのです。

◇ ◇ ◇

子どものことばの発達は個人差が大きく、順調に伸びていく子どももいれば、はじめは停滞していてもある時期を境に成長を見せる場合もあります。

本当に十人十色。

小児の言語療法にも、絵カードを使って語彙を増やし,口を動かして発音を明瞭にするという訓練に近い形で言葉の発達を促そうという方法ももちろんあります。

いかにも勉強してるっぽいですし、大人のウケはいいのですが、その場ではできたとしても、日常生活の中で生きた言葉として機能するとは限りません。

言葉はコミュニケーションの一つの手段です。自分の要求や考えを「分かってもらえた」という満足感,「伝えたい」というコミュニケーション意欲が芽生えてこそ生きた言葉につながっていくのです。

大人が一方的に言葉を指導するよりも、言葉やコミュニケーションの楽しさを伝えられる存在になることが一番の近道ではないでしょうか。

(李福南 言語聴覚士/在日本朝鮮人医学協会会員 ■03・6268・9817)

【引用文献】

中川信子(2004).ことばが伸びるじょうずな子育て 社団法人日本家族計画協会

中川信子(2009).発達障害とことばの相談-子どもの育ちを支える言語聴覚士のアプローチ- 小学館

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