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〈朝鮮紀行《食》 29〉ユッケと刺身

2016年11月07日 14:32 文化・歴史

近くて遠い朝・日の調理法

平壌駅前にある食堂その名も「駅前食堂」。

日本人や同胞たちはもちろん「元在日」の帰国者たちも懐かしさを求めよく訪れると聞く。私の姉も時々利用するようだ。

日本では食べられなくなってしまったユッケ

日本では食べられなくなってしまったユッケ

ある日学生たちと駅前食堂で食事をした。メニューには唐揚げ、フライドポテト、揚げ出し豆腐、うどん、親子丼、卵焼き、お好み焼き、イカ焼き、豚足、蒸し豚、ユッケ等日本の家庭、焼肉店でよく出る料理が混在している。予算はマスターとの話し合いで「これで十分です。お釣りが出ると思います、ご安心を」ということになりいざ注文。するとその勢い留まること知らない学生たちにウエイトレスは対応に追われ苦笑い。

中でも最近日本ではあまり食べられないユッケを、これを機に食べ貯めでもするかの如く注文が止まなかった。私の息子もウリナラ訪問時に姉との食事でユッケをたらふく食べたそうな。

肉を豊富な野菜で包んで食べる

肉を豊富な野菜で包んで食べる

息子曰く日本ではめったに食べられないからウリナラで思う存分ユッケを食べる、と。昔家でユッケを食べているとアボジは、「ユッケとタルタルステーキは同じだ」とその由来を話していた。幼いながらもなんとなく刻まれていた記憶が蘇りこの2つに共通する部分を後で詳しく知ることとなった。

朝鮮では高麗時代、仏教の殺生禁止があったにもかかわらず肉食文化が絶えることなく発達したと言われている。中でも蒙古の侵略と肉食民族タタール族の影響を受け、生肉を美味しく調味して食べる習慣がユッケとして残っている。ユッケに欠かせないのがヤンニョム(薬念)を和えること。ヤンニョムは食材の味がイマイチでもこれさえあればどうにか纏ってしまう調和の力がある。

ヤンニョムは醤油、コチュジャン等の基本調味料に、にんにく、胡麻油、唐辛子等混ぜ合わせて作ったタレ。ヤンニョムの種類と豊富さゆえに朝鮮料理の混合味の追求が深まったと考えられる。

平壌駅前食堂でたらふく食べる学生たち

平壌駅前食堂でたらふく食べる学生たち

さらに朝鮮料理の代表と言えるピビンパップ、クッパ、サム等はさまざまな食材を一緒に食べる合理的な手法を取り入れた民族の知恵から、混合味を見極めるすぐれた味覚を自然に体得したいわゆる味のシンフォニーといえるのではないか。

一方、日本には元来食材が持っている味をどれほど引き出せるかを追求する食文化がある。肉食文化がそれほど発達しなかった日本では、海に面した地理的条件から魚介類を刺身として食べることが発達した。刺身は食材の新鮮さが命で少量の薬味(多くは山葵 ルビ=ワサビ)と醤油を付けて食べる。日本酒は生産技術もそうだが酒米の産地や精米歩合で酒の美味しさを追求、つまり米そのものが決め手になる。

戦後捨てられた牛豚の内臓肉をヤンニョムに絡ませて発展してきた焼肉。今では日本の誇る和牛とコラボしながら焼肉は世界にまでも発信されるようになった。朝鮮と日本を拠点とした混合食文化ありきと。海を隔てた隣国でありながら料理の手法がまったく違う朝鮮と日本で多彩な混合味を含むさらなる合作料理が今後出現するかもしれない。

(金貞淑、朝鮮大学校短期学部生活科学科教員)

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