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〈それぞれの四季〉恩師の言葉/康貞奈

2016年09月30日 14:51 コラム 文化・歴史

美しいものを観たり聴いたりするのが好きだ。中学の3年間、大魔神と呼ばれていた先生に美術を学んだ。新鮮な授業で美の世界へと視野を広げてくれた。宿題にアジの干物のデッサンを提出したら、えらく気に入られてしまい、中3になると授業の度に、高校の美術部の先生の指導を受けるよう勧められた。朝鮮美男だがいかつい顔。つい「考えてみます」と言ってしまい、続けたかったフルートを諦めた。

和やかな雰囲気の美術部室で木炭のデッサン三昧。先輩に可愛がられ、私の人生で一番楽しい学園生活だった。油絵になる頃から、道具をそろえられず、部活を遠ざけた。それを残念がられ、先生は「文化芸術を軽んじ力の論理を振り回す人間は想像力に欠け、生意気になる。流されない意思を持って謙虚に」と忠告された。その後美術と無縁な生活の中で幾度も悔いた経験から恩師の言葉を何度噛締めたことか。

数十年後、先生の個展に伺った。漢弩山、漁村、漁夫、綱、干し明太…青、紅殻、紫、黄の色使いはセザンヌを思わせた。持続する実態をとらえる絵の力強さ、漁村の絵からは波の音が聞こえるようだった。アジア的な深い郷愁に満ちた世界が広がっていた。朝鮮凧に祖国統一の願いが溢れる。素晴らしかった。

先生から、在日一世の歴史が偲ばれた。恩師は今も絵筆を握っておられる。民族教育と共に歩み、優れた美術家を育て、絵で語っているのだ。(書芸家)

 

 

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