公式アカウント

“ヘイト許容する抜け道”“極めて不十分”/外国人人権法連絡会が声明

2016年05月13日 15:47 権利

12日、参議院法務委員会でヘイトスピーチ対策法が可決した。これと関連し、外国人人権法連絡会(共同代表:田中宏・丹羽雅雄・渡辺英俊)は同日、声明を通じて同法案の問題点を明らかにした。全文は次のとおり。

参議院法務委員会での「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」可決についての声明

1 本日(12日)、参議院法務委員会で自民、公明両党が4月8日参議院に提出した「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律案」が、①「不当な差別的言動」の定義に「著しく侮蔑」する場合を追加修正し(第2条)、②不当な差別的言動に係る取組については、「この法律の施行後における・・・不当な差別的言動の実態等を勘案し、必要に応じ、検討が加えられるものとする」との条項を附則(第2項)に入れた上で、全会派一致で可決された。

2 これまで日本では、在日外国人に対するヘイト・スピーチを含む深刻な差別の存在自体を認めず、外国人に関する法律は、差別し管理するものしかないに等しかった。差別に苦しむマイノリティと、共に差別と闘う人々は、長年、反人種差別法を求めてきた。しかし、日本が1995年に人種差別撤廃条約に加入してからでも既に20年もの間、国会は人種差別撤廃立法を行う責務を怠ってきた。

私たちは、この間のヘイト・スピーチの急激な悪化、蔓延に対し、国が差別の被害を認め、人種差別撤廃条約に基づく人種差別撤廃政策を構築する第一歩となる、人種差別撤廃基本法を求めてきた。

今日可決された本法律案は、人種差別撤廃基本法案ではなく、外国出身者へのヘイト・スピーチに特化した、禁止条項のない、国の新たな具体的な施策も財政措置も審議機関もない、あまりにも実効性の弱い内容である。それでも本法律案は、在日外国人に対する「差別的言動」が、被害者の「多大な苦痛」と「地域社会に深刻な亀裂を生じさせている」という害悪を認め、その解消を「喫緊の課題」(第1条)であるとして「差別的言動は許されないことを宣言する」(前文)ものであり、日本における初めての反人種差別理念法としての意義を有する。

昨年2015年5月22日に民主党(当時)、社民党及び無所属議員7名が共同で「人種等を理由とする差別の撤廃のための施策の推進に関する法律(案)」を出したこと、300を超える地方議会が国の対策を求める意見書を採択したこと、現場でのカウンターなど、多くの人たちの反差別の取り組みが、与党が圧倒的な多数を占める国会をも動かしたといえるだろう。

3 しかし、本法律案にはいくつかの看過しえない問題点がある。

特に、保護対象者を「適法に居住するもの」に限定する定義を入れたことは、大きな誤りである。私たちNGOが4月19日に共催した「今こそ人種差別撤廃基本法律案の実現を」第4回院内集会においても、NGO共通の最優先課題として、この適法居住要件を削除するよう強く求めた。また、日弁連(5月10日付け会長声明)をはじめ、東京弁護士会(4月28日付け会長コメント)、千葉県弁護士会(5月2日付け会長談話)も同要件を厳しく批判している。

非正規滞在者に対する不当な差別的言動は許されると解釈しうる条項は、非正規滞在者に対する差別を促進する危険性がある。放置すればマイノリティの間に、法の保護の対象になるものと、ならないものとの分断を持ち込む可能性さえある。また、「不法滞在の〇〇」とすれば、すべてのヘイト・スピーチが許されうる抜け道ともなりえ、「不当な差別的言動を解消する」との本法律案の趣旨を損ねるものである。さらに、人種差別撤廃条約の解釈基準として人種差別撤廃委員会が示した「市民でない者に対する差別に関する一般的勧告30」において、「人種差別に対する立法上の保障が、出入国管理法令上の地位にかかわりなく市民でない者に適用されることを確保すること、および立法の実施が市民でない者に差別的な効果をもつことがないよう確保すること」(パラグラフ7)との勧告に、この適法居住要件は真っ向から反している。

したがって、私たちは、適法居住要件を削除した上での今国会での成立を求め、仮に削除されないまま本法律案が成立した場合には、次期国会において、速やかに同文言を削除することを求める。

なお、仮に同要件が残ったまま成立したとしても、法律の上位規範である条約に違反していること、参議院法務委員会での法案審議において、二名の発議者が、非正規滞在者に対するヘイト・スピーチを許す趣旨ではないと明言したこと、また、附帯決議において「第2条が規定する『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』以外のものであれば、いかなる差別的言動であっても許されるとの理解は誤りであり、本法律案の趣旨、憲法及び人種差別撤廃条約の精神に鑑み、適切に対処する」とされていること(第1項)に照らし、適法居住要件は運用上ないものとして扱うべきである。今後、各地で作られるであろう条例に、同様の要件を入れることなど決してあってはならない。

4 次に、ヘイト・スピーチの解消を喫緊の課題とし、「差別的言動は許されない」とする以上、何より実効性が求められるが、本法律案に禁止条項が入らなかった点は極めて不十分と言わざるを得ない。本来、人種差別撤廃条約で、差別を「禁止し終了させる」義務を国も地方公共団体も負っているのだから、少なくとも、野党法案のように、条文上、違法と宣言すべきである。

ただ、附帯決議で人種差別撤廃条約の「精神に鑑み、適切に対処すること」とされたのであり(第1項)、政府はこれを今後、十分に尊重しなければならない。また、附帯決議では、地方公共団体においても国と同様に解消に向けた取組に関する施策を着実に実施することが明記され(第2項)、参議院法務委員会の審議においても発議者が、地方公共団体における具体的な取組に期待する発言を繰り返したことからも、今後、地方公共団体で条例を作る際に、実効性ある内容を入れるべく、本法律案を生かすべきである。

また、本法律案の2条の「不当な差別的言動」の対象として、被差別部落、アイヌ、さらには琉球・沖縄などの人種的・民族的マイノリティが入っていないことも問題である。すでにこれらのマイノリティに対するヘイト・スピーチが行われている立法事実があり、附帯決議第1項にも記載されているとおり、出身地が国内であるか国外であるかを問わず、ヘイト・スピーチは許されないのは当然のことである。人種差別撤廃条約の求めている「人種、皮膚の色、世系、民族的及び種族的出身」を理由とするすべてのヘイト・スピーチを対象とすべく、附則第2項に基づき速やかに改正すべきである。

5 私たちは、国および地方公共団体に対して上記の諸点の是正を強く求めると共に、本法律案が成立すれば、現場で活かし、反差別の取り組みを深化させていく。

附帯決議には「人種差別撤廃条約の精神に鑑み」とあり、本法律案は人種差別撤廃条約上の責務の履行の一部と位置づけられている。また本法律案は、法務省が2016年度予算案で掲げた、2020年オリンピックにむけた「人権大国・日本の構築」のワンステップとなる。すでに法務省による外国人の人権状況に関する調査の準備が開始されており、その調査結果は外国人差別の実相を示し、立法事実となるだろう。次の立法段階として、私たちは人種差別撤廃基本法の制定を求めていく。

かつて1980年代~90年代の指紋拒否・外登法改正運動においては、4回の法改正がなされ、指紋制度全廃に至った。それは「5年後の見直し」という附帯決議を梃子に、外国人も日本人も粘り強く闘い続けたからである。

これまで「法律がないから何もできない」との言い訳に煮え湯を飲まされ続けてきたヘイト・スピーチ被害者と、共に差別と闘う者にとって、本法律案が成立すれば、国および地方公共団体を動かすための力となりうる。私たちは、本法律案が成立した場合、速やかに、それをどう活用しうるか提言することも含め、今後とも、外国人の人権保障及び人種差別撤廃のための法整備の実現にむけ努力していく所存である。

(朝鮮新報)

Facebook にシェア
LINEで送る