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〈本の紹介〉「拉致被害者たちを見殺しにした安倍晋三と冷血な面々」蓮池透著

2016年02月19日 12:05 主要ニュース 文化・歴史

過去の清算こそ、解決に繋がる/矢野宏

拉致問題の解決がまた遠のいた。日本政府が独自制裁を決めたことで、北朝鮮が拉致被害者を含む日本人に関する再調査をする特別調査委員会の解体を発表したからだ。

一昨年5月の「ストックホルム合意」を経て特別調査委員会が設置された。その後、北朝鮮側は再調査報告の延期を通告、今日にいたるまで報告はなされないままだと、日本のメディアは伝え、北朝鮮に対する非難のトーンを強めている。だが、日本側に落ち度はないのか。

本書が出版されたのは昨年12月。著者はまえがきでこう記した。〈いつまで待てばいいのか? 一部の専門家のあいだでは、「北朝鮮側はいつでも報告できる状態である」ともいわれている。その内容が、日本側にとって満足できるものではないため、すなわち日本側の事情で報告を受けないというのだ〉。

講談社、03-5395-4415、1600円+税。

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本書にはこれまで「タブー」とされた日本側の対応の問題が洗いざらい記されている。拉致問題の迅速な進展のため、少しでも教訓になるようにという願いからだ。しかし、残念ながら事態は著者が恐れた通りに進んでいる。

それにしても、拉致被害者家族として家族会の事務局長として当事者だからこそ知り得た「事実」は重い。なかでもブルーリボンに代表される政治家たちの姿は醜悪そのもの。その最たるものが、タイトルに掲げられた現職総理、安倍晋三氏だ。2002年の小泉訪朝で「拉致の安倍」と名を挙げたが、実像は世間の評価とは正反対のようだ。日本人奪還を主張した「武勇伝」はフィクションだという。著者はこう指摘する。「北朝鮮を悪として偏狭なナショナリズムを盛り上げた。そして、右翼的な思考を持つ人々から支持を得た」「拉致問題をもっとも巧みに利用した国会議員だ」と。

安倍首相は、1月12日の衆院予算委で、本書の内容について指摘されるとすかさず否定、「私が言っていることが違っていたら、私は議員バッジを外しますよ」などと気色ばんで見せた。よほど痛いところを衝かれたのだろう。同じく拉致被害者を利用して大臣の椅子を掴んだ中山恭子氏も「著者は北朝鮮の工作員」とまで答弁し、貶めた。

では、拉致問題の解決とは何なのか。著者はこう記す。「日朝間に横たわる『過去の清算』の問題を考慮せずして真の拉致問題の解決などない」。まさに命を懸けた渾身の書を、大手メディアはほぼ黙殺している。何とも情けない。

(新聞うずみ火・矢野宏)

 

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