公式アカウント

〈本の紹介〉ジャーナリストという仕事/斎藤貴男著

2016年02月10日 10:02 文化・歴史

「権力のチェック」こそ基本

権力との癒着など、マスコミへの批判が高まっている。またネットの発達で誰もが情報を受信・発信できるなど、メディア環境の激変も続く。いまジャーナリストの役割とは? 業界紙や週刊誌の記者を経て、フリージャーナリストとして活躍する著者が自らの体験を振り返りながら、ジャーナリズムの意義やメディアのゆくえなどを熱く語る。

 岩波ジュニア新書、840円+税、03-5210-4000。


岩波ジュニア新書、840円+税、03-5210-4000。

誰もが情報を発信できる時代には、職業ジャーナリストの存在意義は薄らいでいるように見える、と著者は疑問を投げかけながら、そういう時代だからこそ、「いままでにも増して、いいかげんな発信にまどわされない、プロフェッショナルの、しっかりした仕事が必要だ」と断じる。正確な取材力によってつかみ取られた本物の情報や、経験に裏づけられた視点に基づく分析が必要だと。

本書のタイトルはズバリ「ジャーナリストという仕事」。誰もが書いていいはずがない。まさしく本物のジャーナリスト、斎藤貴男氏によって書かれたからこそ、引きつけられる書である。歯に衣着せぬ物言いで、傲慢な権力者、財界人たちをバッサリ切り捨てる。代表作「機会不平等」「空疎な小皇帝―「石原慎太郎」という問題」「『東京電力』研究 排除の系譜」などには、強者がおごり高ぶる空気を容赦しない骨太の反骨精神と媚びないジャーナリスト魂が脈打つ。その仕事の裏側には、名もなき貧しい人々、額に汗して働く庶民、そして、屑鉄を積んだリヤカーを引きながら、息子を大学まで出してくれた亡き父への熱い感謝と尊敬の心が溢れている。

この独立独歩の心意気が、フリーの仕事を支える気骨となった。昨年はついに自衛隊をいつでも海外に派兵できる安保法が成立した。大新聞などのマスメディア、言論人などは批判の牙を抜かれ、今ではまるで「プロパガンダ機能に成り下がろうとしている」ようにしか見えないと嘆く。

斎藤氏は本書のなかで、繰り返し執拗な安倍政権によるメディアコントロールに触れている。「従軍慰安婦」検証報道と朝日バッシングにも言及しながら、「ジャーナリズムの基本的な役割は、『権力のチェック』であるはずだ」と指摘し、「権力を批判することが『国益を損ねる』というのであれば、ジャーナリズムなど必要ありません」と一喝。「政府や巨大企業の発表を垂れ流すだけなら、インターネットと、機械的な作業をこなせるアルバイトの学生がいれば事足ります。そんなことで民主主義が成り立つはずがありません」と。危機的状況だからこそ、共に、明日のジャーナリズムを築いていこうという著書のよびかけに応えなければ。(粉)

 

 

 

 

 

 

Facebook にシェア
LINEで送る