Q. 朝鮮の核実験直後、総聯中央の副議長まで再入国許可が取り消されたが。
A. 日本政府は、核実験の当日である2月12日の内閣総理大臣声明において、「諸懸案の包括的な解決のために我が国がとる更なる対北朝鮮措置として、在日の北朝鮮当局の職員が行う当局職員としての活動を実質的に補佐する立場にある者による北朝鮮を渡航先とした再入国は原則として認めないこととすること」と発表した。そして、総聯の副議長がこれにあたるとし、法務省は同日付で各副議長に対し、再入国許可取消の通知を送ってくるという一方的な措置を取った。
これは、1回目の核実験があった2006年10月9日の2日後の官房長官発表以降、総聯の議長をはじめ朝鮮の最高人民会議代議員資格を持つ6人の在日朝鮮人の再入国を禁止するという措置が取られたことに続く措置だ。
なお、2006年の同発表では「北朝鮮籍を有する者の入国は、特別の事情がない限り認めない。但し、在日の北朝鮮当局の職員以外の者の再入国は、この限りではない」とされ、この「在日の北朝鮮当局の職員」に議長をはじめとした6人があたるとしたものだった。
この時の「北朝鮮当局の職員」という概念も極めて曖昧模糊としたものだったが、今回の「北朝鮮当局の職員が行う当局職員としての活動を実質的に補佐する立場にある者」というのはさらに基準が曖昧であり、なぜこれに副議長が該当するのかなど合理的理由は示されていない。
行動の自由を奪うような措置をとるに当たって、何の合理的理由も示さないのは極めて問題であることは言うまでない。
また、このことは、解釈一つで簡単にその対象が拡大されることも意味する。
さらに、再入国許可自体を取り消しては、「北朝鮮を渡航先とした再入国は原則として認めないこととすること」と内閣総理大臣声明で述べているにもかかわらず、朝鮮以外の国に向けても出国できないこととなる。総理大臣声明の解釈幅を逸脱した措置が何の説明もなく、いとも簡単になされていることも問題だ。
Q. そもそも再入国許可制度とは?
A. 日本を出国した外国籍者が日本に再度、入国することを許可する制度で、「出入国管理及び難民認定法」(以下、入管法)に規定されている。その第26条に「法務大臣は…再入国の許可を与えることができる」とあるように、法務大臣が許可権者となっている。
Q. 再度、入国と言っても私たちは日本で生まれているけど。
A> 日本で生まれ育ち、日本に生活の根拠があり、永住資格まで持つ私たち在日朝鮮人らにまでも再入国許可の対象とすることについては、「市民的及び政治的権利に関する国際規約」(以下、自由権規約)の規定にも違反しているという批判がなされている。
具体的に言うと、この規約には他の人権関連の国際条約と同様、条約批准国の国内でその規定が遵守されているかを審査し、必要に応じ是正勧告を行う委員会があるが、この自由権規約委員会は1998年の日本審査の末に出した総括所見において、「出入国管理及び難民認定法第26条は、再入国許可を得て出国した外国人のみが在留資格を喪失することなく日本に戻ることを許可され、そのような許可の付与は完全に法務大臣の裁量であることを規定している。この法律に基づき、第二世代、第三世代の日本への永住者、日本に生活基盤のある外国人は、出国及び再入国の権利を剥奪される可能性がある。委員会は、この規定は、規約第12条2及び4に適合しないと考える。委員会は、締約国に対し、『自国』という文言は、『自らの国籍国』とは同義ではないということを注意喚起する。委員会は、従って、締約国に対し、日本で出生した在日朝鮮人の人々のような永住者に関して、出国前に再入国の許可を得る必要性をその法律から除去することを強く要請する」と勧告している。
自由権規約には、「すべての者は、いずれの国(自国を含む)からも自由に離れることができる」(第12条第2項)、「何人も、自国に戻る権利を恣意的に奪われない」(同条第4項)という規定があるが、ここにいう自国というのはその人が永住する国も含んだ概念と解すべきだ、そしてそれは権利であり、政府が許可するとかしないとかを決める問題ではないのだ、と言っているのだ。つまりは日本を出国した日本人が日本に戻ることが政府によって不許可にされることがないように、「日本で出生した在日朝鮮人の人々のような永住者」も不許可にすることはできないようにすべきであると言っているのだ。
なお、このことについてはEUからも批判を浴びている。
EUの駐日代表部は2006年に「日本の規制改革に関するEU提案」において再入国許可制度が「なぜ永住資格を持った外国人に適用されるのか」とその制度是正を促している。
Q. 最近、再入国許可の申請にわざわざいかなくてもいいようにもなったと聞いたが。
A. 前の設問で述べたような国際世論も意識してか、日本政府は2009年の入管法(正式名は「出入国及び難民認定法」)及び入管特例法(正式名は「日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法」)改定時に、「みなし再入国許可」制度という一定条件における許可申請免除の枠組みを設け、2012年7月9日より施行した。しかしこれは、許可制度の原則はあくまで変えない、その枠の中での改定に過ぎない。
さらにこの制度は、「有効な旅券」と「特別永住者証明書」(特別永住者以外の在留資格の者は「在留カード」)の所持をその条件として、2年以内(「在留カード」所持者の場合は1年以内)の出国につき許可申請をしなくとも許可を与えたものと「みなす」という制度ですが、ここでいう「有効な旅券」には、朝鮮の旅券は認めないという取り扱いを日本政府はしているため、朝鮮の法令に基づき総聯中央が発給する朝鮮旅券では、この「みなし再入国許可」制度のメリットを享受できず、相変わらず入管事務所に赴き、許可申請をしなければならなくなっている(数次再入国許可の期間は4年から6年に伸長されてはいる)。
なお一方で、日本政府は朝鮮と同じく国交のない台湾やパレスチナの当局が発行する旅券も「有効な旅券」として取り扱うことを政令で定めている(台湾は1998年から、パレスチナは2003年から)。
「韓国」旅券を持たない在日朝鮮人だけがこの「みなし再入国許可」制度を利用できなくなることを知りながらこのような要件を設けていることは、極めて不当と言わざるを得ない。
Q. いままでも同胞が再入国許可を認められないということがあったの?
A. かつては朝鮮への往来についても、第三国への渡航についても、外国人登録法上の国籍表示が「朝鮮」となっている同胞に対しては再入国許可が簡単には出されないという状態だった。在日朝鮮人は、自分の故郷を訪問することも、肉親に会いに行くことすらもままならない、日本列島に閉じこめられたまさに「島囚」のような扱いだったわけだ。
その状態を打破する契機となったのが、朝鮮の建国20周年祝賀在日朝鮮人代表団の再入国不許可処分についての裁判闘争だ。
この訴訟は、第1審の東京地方裁判所、控訴審の東京高等裁判所のいずれもが、法務大臣の不許可処分が違法であるとして、再入国不許可処分を取り消す旨の判決を下していた(東京地方裁判所1968年10月11日判決、東京高等裁判所同年12月18日判決)。
「…渡航の自由は、日本人のみならず日本国に在留する全ての外国人にとっても基本的な人権であるから、前示のとおり、日本国の利益又は公安を害する行為を行うおそれのある者でない限り、いずれの国向けの再入国であっても許可せらるべきあり、その国が日本国の政府によって承認されているか否かによって再入国の拒否が左右さるべきではない」(地裁判決)、「元来政府の政策は、国益や公共の福祉を目標として企画実施されるべきことは多言を要しないが、政策と公共の福祉とは同義ではないから、或人々が本来享有する海外旅行の自由を行使することが、たとえ政府の当面の政策に沿わないものであつても、政策に沿わないということのみで右自由権の行使が公共の福祉に反するとの結論は導かれないのである」(高裁判決)と判示している。
なお、この訴訟の上告審において、最高裁は、既に建国20周年の一連の行事が終了していることを『理由』に「訴えの利益が失われた」と訴えを却下し、自ら判断することを避けた形となったが、これは上記両判決については最高裁をしても否定できなかったことを意味していると言える。
この判決以降、1972年には、再入国許可を受けた最初の在日同胞代表団による祖国訪問が実現。また、これと並行して第三国への渡航に対する再入国許可も受けられるようになっていった。
しかし、1980年代に外国人登録制度に定められていた指紋押捺を人権侵害であるとして拒否した在日外国人が、同胞をはじめ少なからずいた。その人たちに対し、日本政府は再入国許可申請を拒否するという形で制裁を行った。その結果、実際、再入国許可なしで出国せざるを得なかった人もいた。
権利ではなく、政府の裁量に委ねられた許可制度であるということは、時にこういった露骨な嫌がらせ、恣意的運用を許してしまうことが、この事例からもよく分かる。
Q. このような恣意的運用について、日本の法律上では許されてしまうということなのか?
A. まず、日本の憲法では「日本国が締結した条約及び確立された国際法規は、これを誠実に遵守することを必要とする」(第98条第2項)という規定がある。
したがって、3番目の設問で述べた自由権規約の規定については、少なくとも日本がこれに批准した1979年以降は遵守しなければならない。
さらに、特別永住者について定めた入管特例法では、再入国許可規定の適用に当たり法務大臣は「特別永住者の本邦における生活の安定に資するとのこの法律の趣旨を尊重するものとする」(第23条第3項)と定めている。
特別永住者は旧植民地出身者及びその子孫を対象に設けられた在留資格だが、その歴史的経緯や生活実態に即し、再入国許可制度においては、その「生活の安定」を脅かすような運用をしてはならないとしているのだ。総聯の幹部たちも特別永住者だ。本来、政治的な意図のもと恣意的に運用するのは自由権規約違反のみならず、この入管特例法にも違反していると言える。
最初の設問で触れた2006年10月11日官房長官発表以降、特別永住者証明書(旧外国人登録証明書)の国籍欄が「朝鮮」の者に対し、どの国に渡航するかに関わりなく当面の渡航先のみならず2回目の渡航計画まで示さないと数次(マルチ)の再入国許可を出さないという方針がとられている。
一時はその2回目の渡航計画について旅行会社の発行する資料や航空券などを求めるということまで各地の入管事務所で行われていた。
再入国許可行政が恣意的に行われることを放置しておけば再入国不許可の対象を拡げてくるなど政府がその権限をさらに濫用してこないとも限らない。
それを許さないためにも世論喚起をはじめとした様々な取り組みが必要と言える。
【金東鶴・在日本朝鮮人人権協会事務局長】