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〈朝鮮民族の美 49〉申潤福「月下情人」

2013年04月05日 16:36 文化・歴史

これは愛し合う男女が、人眼をさけて深夜、会っている場面である。

紙本淡彩 28.2×35.2cm 澗松美術館

朝鮮では、長期にわたり儒教の教えを極端に拡張して、「男女七才ニシテ席ヲ同ジクセズ」として、男女の自由な交際を禁止し、結婚に際しても親同士が話を決め、本人たちは結婚の日に初めて会うということも少なくなかった。そういう社会的環境の中で、愛し合う男女は、この絵のように交通禁止となる夜の三更(23時~3時)に家を抜け出し、約束の場所に急いだのである。

三日月も二人の心を知るかのように、光を落とし西に沈もうとしている。そのお陰か、男の持っ行灯(あんどん)に照らされて足下だけが明るく、周囲はもうろうとして土塀の上部も闇につつまれ、あばら屋だけが人眼をさえぎっている。女性はときめく心を押さえかね、男に近ずきながら、被り物(쓰개치마)を握りしめているが、心はすでに男に傾いていることは、その靴の方向ではつきりする。行灯を持つ男も全身で愛情を現し、共に歩もうとしている。

この画家が、閉鎖的な社会環境の中で、男女の愛に対して同情し、かつ肯定的なまなざしで、このような絵を好んで描いた心底には、当局の伝統的な政策に対する反抗心が積み重なっていたであろう。当局者もこれを感じ取り、「いかがわしい絵」を描いたとして、画院から追放したのである。その晩年についての記録はない。

(金哲央)

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