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【インタビュー】床井茂弁護士/「在日朝鮮人弾圧は逆効果」

2013年03月04日 17:23 主要ニュース 権利

日本政府は、朝鮮に対する独自制裁だと称して、在日朝鮮人に対する弾圧をエスカレートさせている。再入国を認めない対象を総聯中央副議長5人にも広げる一方、朝鮮高級学校だけを「高校無償化」制度の対象から除外し、地方自治体も朝鮮学校への補助金を打ち切る動きが広まっている。床井茂弁護士に総聯弾圧の目的と不当性などについて話を聞いた。

床井茂弁護士

Q. 日本の「独自制裁」をどのように見ているか。

A. 安倍政権は、拉致問題の解決は自らの使命であり、必ず解決すると公言した。しかし、打つ手がない。そういったところの焦燥感、手詰まり感を示すものだと考えている。

とは言え、こういう行為は許されるわけではない。悪質な差別であることは明らかで、憲法や国際条約で認められた祖国往来の自由という基本的な人権の侵害にあたる。

このことによって日朝間の緊張を激化させ、逆に拉致問題という懸案事項の解決を遅らせるだけだ。

Q. 安倍政権はなぜ、このような「制裁」を科そうとするのか。

A. まさに、打つ手がないという焦りからだと思う。

首相声明による、副議長5人に対する再入国許可を取り消す理由にしても、言っている意味がよく判らない。5人の副議長を「在日の北朝鮮当局の職員が行う当局職員としての活動を実質的に補佐する立場にある者」としているが、意味不明な内容だ。意味不明な言辞で国民を欺くものだ。

2月27日の参院予算委員会で官房長官が述べたように、総聯幹部に限っている再入国禁止の対象を、さらに拡大する恐れがある。おそらくそのような方向に向かっていくだろう。

しかしそれは、ますます拉致問題の解決を遅らせるに過ぎず、在日朝鮮人の基本的人権の一つである祖国往来の自由を侵害するものだ。

Q. 朝鮮学校、生徒に対する差別政策が目立つが。

A. いかなる国籍、いかなる人の子どもであろうと、差別してはならない。法律上の平等の原則に定められている。憲法上も人権上も許されない行為だ。

朝鮮学校に対してのみ「高校無償化」を適用せず、この機に乗じて、地方自治体がこれまで支給してきた補助金を打ち切るなどとんでもない話だ。

「無償化」除外や補助金停止のような措置は、今までなくそうと努力してきた日本社会における差別、偏見を逆に助長するものだ。

また、これまで良き友人、隣人として付き合ってきた流れを破壊する、悪らつな行為だと言わざるをえない。

政府や一部の自治体が言うような「成果」など生まれないだろう。

Q. 文部科学省の省令改正をどのように見るか。

A. 省令は、政府や関係官庁が制定するものだが、法律の一部でもある。

その法律を、都合が悪いからといって、自由勝手に在日朝鮮人生徒に不利益な方向に突然変更するということは許されない。

これまで省令をもとに、(在日朝鮮人、友好団体の)みなさまが朝鮮学校への「無償化」制度適用を求めてきた。それを、突然の省令の改正によって対象から外してしまうのは、法律社会においては、まったく許されない暴挙だ。

Q. 神奈川県や埼玉県などが補助金打ち切りを発表したが。

A. そもそも補助金制度は、政府の援助を補てんするもので、何とかして民族教育を住民自治の中で実現しようとするものであった。それを一方的にこのような形でなくしてしまうのは、住民自治に反するものだと言わざるをえない。

Q. 第1期安倍政権も総聯と在日朝鮮人弾圧を強めた。その目的は何か。

A. 目的ははっきりしていると思う。強制捜査それ自体が、日本政府が朝鮮との間の緊張を強めるということだ。朝鮮との友好を願う人びとの連帯を分断しようとするものだ。

総聯がこれまで在日朝鮮人の権利向上のためたたかってきたという実績への恐れが、一方にある。日朝友好団体や朝鮮との友好を願う人びとの中に分断をもたらし、権利取得運動を弱体化させようとする狙いがあると考えている。

Q. 床井弁護士は朝鮮会館問題に当初から関わってきている。これまでの一連の動きをどう見ているか。

A. 裁判所においても、総聯がRCCに対して債務を負っているということは認められている。しかしながら、このことと朝鮮会館問題は、別問題だと思っている。

総聯はこれまで、債務返済に向けて真しな努力をしてきた。競売に出そうとする動きは、今まで取り組んできたこのような事実と実績をまったく無視している。

本来朝鮮会館は、日朝友好運動の、そして在日朝鮮人の権利擁護運動の砦である。日朝国交正常化が実現された際には大使館となる建物だ。この建物を競売に出すということ自体が、そもそも日本政府の政策的な「反逆」と言える。

大使館、領事館は相互に当事国の主権が及ぶ。日本政府がこれを翻したということにおいては、国際的にも批判を浴びるのは当然だ。

本当に日朝友好を願う、あるいは日朝間に横たわる問題を解決して、日朝国交正常化を目指すのであれば、その第一歩としても朝鮮会館問題も解決すべきだ。競売に出すということはやってはいけないことだ。総聯だけでなく、朝鮮側の反発を招くだけの弊害しかもたらさないだろう。

日本政府は今すぐにでも、競売を取り下げ、総聯と十分に話し合い、どのような計画をもって債務を返済するのかを協議すべきだ。これが正しいあり方だ。

Q. 総聯と在日朝鮮人にとって厳しい状況が続くが、現状を打開する手立てはあるのか。

A. 今後、日朝友好運動を強めていくこと以外に方法はないと思う。

日本が右傾化する中で、強制連行や従軍「慰安婦」などの歴史的事実を否定しようとしている。これは、在日朝鮮人運動の否定、すなわち、在日朝鮮人が現在有している基本的人権の流れを否定していると言わざるをえない。

とくに、祖国往来の自由など権利獲得のための過去のたたかいの歴史をもう一度学習し、どのように効率よく運動を進めるべきかを模索することが必要だと思っている。また、日朝友好運動の歴史を学ぶのも欠かせない。

(聞き手・姜イルク、写真・盧琴順)

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