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金剛山歌劇団・崔栄徳さん、初ディナーショー

2013年02月22日 13:31 主要ニュース 文化

崔永徳さん

クラシック、ジャズ、民謡で彩り豊かに/〝出会いが何よりの宝物〟

民族楽器の演奏にここまで黄色い声援が飛ぶのも珍しいのではないか。金剛山歌劇団のチャンセナプ奏者である崔栄徳さん(38、功勲俳優)の演奏は、子どもから大人まで幅広い年齢層から人気を集めている。特に年輩の女性ファンからの熱狂的なコールが会場を飛び交う光景は、今ではお馴染みとなっている。

そんな崔さんの初ディナーショーが3月28日、新宿・京王プラザで行われる。金剛山歌劇団の舞台はもちろん、平壌をはじめ、米国、南朝鮮でも公演の舞台にあがり、日本や海外の数々のアーティストとの共演を果たしてきた。今まで日本でも朝鮮半島でも、誰もが経験したことのない民族楽器でのディナーショー。史上初の試みに、「不安もあるけど、早く幕を開けたいという思いの方が強い」と意気込みを語る崔さん。

「初心に戻る」

プレイリストは、ジャズバージョン「アメイジング・アリラン」、クラシックメドレー、「リョンガンキナリ」「熱風」など約10曲(リストは未定)。朝鮮民謡、映画音楽、クラシックなどさまざまなジャンルをチャンセナプとバンドスタイルで披露する。

もう一つの特徴は、メンバーが全員男性であること。「エネルギッシュでパワフルな音色に加え、男性特有の色気も出せれば」。客層の大半が女性であることから、盛り上がること間違いなしだ。

今回のディナーショーのそもそものきっかけは、金剛山歌劇団後援会のある同胞からの提案だった。普段から崔さんに惜しみない支援を傾けてくれるというその同胞は、昨年の8月、崔さんの舞台用の衣装を仕立てに京都まで連れて行ってくれた。そしてその2カ月後の10月、同氏からの電話で今回の話が持ち上がったという。しかし、そのときは、「正直(その話から)少し逃げている自分がいた」という。簡単ではないことを舞台人としては身に染みるほど知っているからだ。

しかし、迷いを相談したある友人からの「前に動かないと新しい景色は見えない。止まっていたら何も変わらないよ」という一言に背中を押され、受諾を決心した。

「何かを変えたい、変わりたいと心のどこかで思っていた」と話す崔さんの言葉の意味は何か。

金剛山歌劇団の舞台に立てば、ソロとしての華やかな脚光を浴びる。そんな日常になんとなく物足りなさを感じていた。しかし、今度ばかりはそうはいかない。宣伝活動からはじまり広告、チケットの準備、出演者たちのスケジュールを組み、観客に喜んでもらえるような演出を考え、会場とのやり取りなどもすべて自分で考えなくてはならなかった。その大変さを改めて体験した。年明けからは同胞や朝・日の行事がある会場にも積極的に足を運び演奏、宣伝活動を行った。「100人の前で演奏して、やっと一人買ってくれるかどうか。チケット一枚売るのがこんなに大変だとは思わなかった」。

東京朝鮮歌舞団の公演に出演し、営業に回ったこともあったという。歌舞団団員らの姿を通じて「彼らの、同胞たちのために身を粉にして働く姿勢を見て強い衝撃を感じた」と崔さん。今回のディナーショーの準備過程は、演奏家として「初心に戻る」きっかけになったという。

幸せなひと時を

9歳から始めたチャンセナプ。進学した中級部には民族器楽部がなかった。同級生らと新たに同部を作ったが、「毎日ピーヒャラ吹いているうるさいやつは誰だ」と先輩たちにけむたがれ、いじめられたこともあった。それでも吹き続けた。「そんな先輩らが今では自分を『在日の誇り』と言って応援してくれるから人生は面白い」。

チャンセナプ歴30年。改めて振り返ると、「楽器を通じた人々との出会いが何よりの宝物になっている」としみじみ語る。「先輩たち」や、今まで自分を支えてくれた多くの人たち、そして今回のディナーショー事務局をはじめ、関わってくれたすべての人たちに感謝したいと話す。

「朝・日関係の悪化など、在日同胞たちにとって暗いニュースが多いが、公演当日はいい演奏で心を満たし、おいしい料理でお腹を満たし、幸せなひと時を過ごしてもらいたい」。さらに今後の活動について、「これからは同胞たちだけではなく、日本、世界に向けて幅広く発信していきたい。『朝鮮の楽器ってこんなにいい音色なんだ。ニュースのイメージと全然違う』なんて思ってもらえたら。国境を越えて、チャンセナプの良さをアピールしていきたい」と、さらなる飛躍を目指し笑顔あふれる崔さんだった。

(尹梨奈)

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