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〈本の紹介〉洪成潭 光州「五月連作版画―夜明け」ひとがひとを呼ぶ

5.18そして3.11後の日本

1980年5月、光州はおびただしい血と土ぼこりにまみれた。軍事独裁政権による民衆の大虐殺。街は瞬く間に「屠殺場」と化し、人々が戒厳軍の銃剣にずたずたに引きちぎられ、吹き飛ばされた。外界からの完全な遮断、孤立した光州でのできごとを画家の洪成潭さんは版画に収め、数千数万枚と刷り、光州の惨状を世に知らせた。

本書には、洪さんの光州「五月連作版画―夜明け」全50点が彼の詩とともに収録されている。日本語の訳詩にあたったのは徐勝氏(立命館大学法学部特任教授)。

五月版画刊行委員会 定価2,800円+税 03-6715-6121

作品からは、当時の惨劇と、洪さんたちが仲間とともに夜明けまでスプーンで版画をこすっていた情景が伝わってくる。50点におよぶ版画作品には、武力弾圧による無残な殺戮だけでなく、光州市民たちの「血と飯で結ばれた『抵抗する共同体』」の実現も込められている。

今年の春、都内で開催された5月連作版画展「ひとがひとを呼ぶ」に出席した洪さんは、「当時、光州は孤立し市場も閉じていた。しかし、そこにいた人たちは誰一人飢えることなく、互いを労わり助け合っていた。商店を営むものは惜しみなく食べ物を分け与え、貧しい人たちは進んで街の掃除を買って出た。誰が強要しなくとも自然と人々の役割分担がなされ、『抵抗の共同体』が実現した」と語っていた。

本には、会期中に行われた対談「『あなたとわたし』を守るために」の内容や、韓国民衆美術研究家の古川美佳さんによる解説、洪さんのエッセイも収録されている。エッセイで洪さんは、「フクシマ」の悲劇について触れ、「『核』を頭にいただいて生きる国は、絶対に民主主義を実現することはできない。政治家と官僚、そして資本家たちの利益のために、『核』はあらゆる秘密主義を厳守する」と指摘し、世界中でもっとも核発電所が密集している南朝鮮が、分断によって常に戦争の危険の中に置かれていると記している。光州の5月と3.11後の日本について考えさせられる本。

洪さんなどの作品展「民衆/美術ー版画と社会運動 」が、12月11日まで福岡アジア美術館で開催中。(潤)