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金剛山歌劇団「春香伝」を見て “約束の二者をつなぐ、愛の物語”

南嶌宏・女子美術大学教授の感想

大阪、東京を皮切りに、金剛山歌劇団の待望の全国ツアーが始まった。世界に知られる古典的名著「春香伝」を脚色した舞踊ミュージカル。全編を通して奏でられ、熱唱される、朝鮮国立ピパダ歌劇団の作曲家ハン・チノク氏による真実の調べに乗って、愛の契りを交わした二人が幾多の困難を乗り越え、信じ合い、そして再会し、再び結ばれるという、まさに真実の愛を巡る、渾身の舞台が繰り広げられる。

時は17世紀後半。朝鮮第19代の王、粛宗の時代。静かに天から差し込む光の中に、主人公成春香(朴順任氏)と李夢龍(劉正一氏)のシルエットが浮かび上がるところから、愛の物語が始まっていく。

端午の節句。広寒楼に出かけた夢龍は、「花遊びの舞」に興じる美しき娘春香に心を奪われる。しかし、夢龍は両班の息子であり、科挙に合格し、高級官吏となることを宿命づけられたエリート。父は南原府使という両班でありながら、母が妓生であったことを理由に、その愛の申し出を心ならずも拒む春香。この運命の出会いを恥じらいから甘美な契りへと、朴順任氏と劉正一氏が、舞台の気を凛とさせ、そして大きく掴み込んでいく舞いによって、二人の未来に寄せる私たちの切なる思いを、抱きしめるように受け止めていく。

しかし、夢龍は父親の新任地漢陽へと南原府を去らねばならなくなる。哀惜の別離に際し、二人は愛を貫き、死しても再会する約束を交わす。この深い心理描写を、脚本、演出、振付けを担う康秀奈氏が繊細に読み取り、男女の愛を昇華させ、人間と人間をつなぐ愛の質感を湛える舞台として、新たな「春香伝」を作り上げようとする。その人間の愛の香りを脇で支える崔成樹氏と黄裕順氏の好演も見落とせない。

やがて、新たに赴任した、業突張りで無慈悲な南原府使、卞学道(柳展鉉氏も実に役の意を得ている)に求愛され、それを拒むことによって、首枷のまま鞭打たれ、闇の中に幽閉される瀕死の春香。この場面もまた「春香伝」の深み、つまり、揺るがぬ一途な愛、悪に屈せぬ強さと美しさを際立たせる重要な要素として、その陰影を忘れ得ぬものとし、とりわけ呉光雨氏の照明演出、コンテンポラリーダンスとしても十分に堪能できる「鬼神の舞」など、現代舞踊としての「春香伝」を強く印象づけることにも成功している。

そして、いよいよ、その闇の向こうから差し込む光の中を、見事な官吏となって凱旋し、春香の命と愛を抱きしめる夢龍。全身全霊の舞台の緊張感が一気に弾け、1,500人を超す超満員の会場がひとつとなって、光と芳香溢れるフィナーレを迎えることになる。

この止むことのない万雷の拍手を浴びるように聞きながら、私は思ったのだ。この拍手と称賛は、深き金剛山歌劇団の熱演に向けられたものであると同時に、どんなに苦しくとも、再会し、一つとなるべき約束の人、そして、祖国への愛を手放さずに生きてきた自らへのものではなかったかと。「春香伝」とはまさにそうした人間の生き方を問う、甘美にして重い「問い」そのものではなかったか。ぜひ多くの日本人にこの愛の舞台を見てほしいと思った。

(朝鮮新報)

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